『叫ぶぞ、マイクでっ!』
オイオイ‥なんだってんだよ、メイコの奴‥。
朝方から機嫌が悪いとは思っていたが、
まさか‥まさかこんなっ。
「ご町内の皆様〜っ!ここに住んでいる柳堂路篤時は〜っ」
「マイクで叫んでんじゃねぇっ!!」
家の屋根の上、メイコが仁王立ちのまま付属のマイクで叫び散らしている。
こういう状況に陥れば、
ご町内の迷惑だとかそういうのはどうでもよくなってくる。
つーか、町内の迷惑と言うか俺の迷惑だっ!!
「降りてこいっ、メイコっ!!」
メイコはちらっとだけ、俺を見て舌を出した。
「顔が怖いだけで、本当は臆病者の恥ずかしがりやなんですよ〜っ!!」
あの野郎っ!!
身体中に一気に血が上る。
怒ってんのか、恥ずかしいのか今の状況じゃ分からない。
ただ、あいつがどうしてあぁいうことしてるのかが引っかかる。
なにを怒ってるのか検討がつかなすぎる。
「俺になんの恨みがあって、んなことしてんだよっ!!」
大声で尋ねれば、メイコは俺を睨んで
「この男は〜!‥女の子がキスして欲しい時に出来ないへたれで〜すっ!!」
とマイクに叫ぶ。
んなことを根に持ってんのか‥。
「あほらしい‥」
思い出して、そう呟く。
それは昨夜のことだ。
楽譜直しをしている俺の部屋にメイコが来て、
機嫌がいいと思っていたら肩に擦り寄ってくるから
なんだ?と聞いたのが間違いだったらしい。
メイコは膨れっ面で
「せっかく二人っきりなのに、キスも出来ない訳っ!このへたれっ!!」
と捨て台詞とものすご〜く痛いビンタをくれた。
それから、今に至る。
「んなこと、いつまでも気にしてんなよな」
俺だって、悪かったとは思ってるさ。
雰囲気ってのを読まなかったとは思っている。
けどよぉ、言わなきゃわかんねぇことだってあんだろうに。
とか、朝に言ったのも益々ダメな原因だったらしい。
女って面倒だな、本当‥。
その仕返しがこれなら、俺はもう彼女とか妻とか一生いらない。
一生独身でいてやる。
ご町内の笑いものなんて‥。
明日から歩けねぇよ、ここら辺。
「いい加減にしろよ‥メイコ。俺だって、怒るときゃ怒るんだぜ?」
限界に来たから、そう怒鳴った。
メイコが俺を振り返って、ちょっと拗ねたような顔で見る。
「そんな顔したってダメだぜ。今更、ゆるさねぇ」
この恥ずかしさは「ごめんなさい」じゃ許せない。
つーか、こんな騒動「ごめんなさい」で済ましていいもんじゃないだろ。
俺はもう、ご町内の有名人さ。
「女に対してへたれで、なんも出来ない男」ってな。
メイコはしばらく俺と見詰め合っていたが、
なにを思ったのかまたマイクを手に叫んだ。
「篤時はへたれで、女心が分かってなくて、
初恋に破れた後なかなか立ち上がれないような繊細さで、
全然ダメな男っ!!」
「お、オイっ!!メイコっ」
まだ言うか、この女っ!!
思わず、屋根に続く梯子に手をかけた。
メイコは続ける。
でも、今度はさっきより何故か少しだけ優しい声。
「だけどっ‥」
たとえ、どんな言い方にしろ許せないのだから屋根まで上る。
「メイコっ!」
上り終わるとメイコがマイクを手に俺を見ている。
「ほら、‥それ渡せ」
メイコは俺の言葉を無視する。
そして、叫んだ。
「だけど、そんな貴方が誰よりも好きなのっ!!!」
「!?」
身体中が熱を持つような感覚。
「私は怖い顔って避けられても、乱暴だって誤解されても、
貴方が優しい人って知っている。
メイコは柳堂路篤時が何処の誰よりも大好きで、大切なのっ!!」
不覚にも、俺は言葉を失っていた。
メイコが真っ赤な顔で、ギュッとマイクを握ったまま立ち尽くしている。
「篤時は、‥私、好き?」
マイクにボソッとメイコが言葉を呟く。
んな伝え方、‥不意打ちだ。
顔が、あちぃ‥。
女なんて、ロクなのがいないって思っている。
女なんて、面倒だと思っている。
二度と恋しないと、そう思った。
けど。
「ずるいぜ、メイコ。そういうの、‥可愛すぎ」
思わず抱きしめていた。
「あ、篤時っ!?」
驚いて、ワタワタするメイコ。
自分が煽ったくせに、‥こういう反応する。
それもずるい。
「柳堂路篤時は、MEIKOに恋してる」
耳元でだけ囁いてやる。
大勢に聞かせるのは、もったいない。
「私もよ、篤時」
メイコもマイクを使わないで、そう答えた。
終
*カイミクが来たら、マスメイだろっ!!と思い、
途中になっていたものを引っ張って書き直しました。
篤時は大人だけど、たまに突然女性的に見て
「オイオイ‥」な部分があればいいと思って書いた話。
メイちゃんに振り回されながらも、だんだん本気になっていけばいいなvなんて(苦笑)
お題は愛すべき弟が提案してくれたもの。
題名は、素敵な「下克上」メイコ姉さんVerの一節から頂きましたw
私のマスメイは多くの方の”愛”で出来ます(笑)
後日も書いちゃいました。
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