『Meltー溶けるー』

「うわぁ!出来たんですね?」

ミクはマスターである篤時に渡された楽譜を見て、
嬉しそうに尋ねた。

「あぁ、まぁな。また、お決まりの恋愛ものだけど」

苦笑気味に言い、篤時は鉛筆を回す。

「あら、私、篤時の詩大好きだわ」

クスッと笑い、メイコも楽譜を見つめる。

「メイコお姉ちゃん」
「なぁに、ミク?」
「めると、って何?」

楽譜を指差して、ミクが不思議そうな顔をする。

「メルト、英語で言えばMeltさ」

メイコの代わりに篤時が答える。

「”溶ける”って意味ね」

同意するようにメイコが続ける。

「とける?」
「チョコとか、カイトが好きなアイスとか熱いと溶けちゃうでしょ?
そういう感じ」

なるほどとミクは頷く。

「恋愛で溶けるなんて、いつも通り素敵な詩ね、篤時v」

ギュッとメイコが篤時に抱きつく。

「サンキュー‥って、恥ずかしいから抱きつくんじゃねぇよ」

メイコの行動に篤時は慌てる。
ミクはそれをみて、微笑んでいる。

「あぁ、そういえばミク」
「?」
「明日それの最初の歌取りするけど、カイトが一緒だから」
「え?」
「最終的にはデュエットにしたいんだよ」

篤時の言葉にミクは頷く。

「分かりました!練習しておきますね」

そう言うなり、ミクは楽譜を手に出て行った。

***

「メルト‥、つまりは溶けるか」

カイトは何度か詩を口ずさみ呟く。

「溶けるって、ドロドロしてるのだろ?」

隣に座っているレンが足をぶらぶらさせながら、尋ねる。

「うん、そうだね。そういうこと」
「なんで、溶けるわけ?」
「嬉しいから、かな?」

カイトが小さく笑う。

「嬉しい?」

意味が分からないとレンが顔をしかめる。

「この青年は好きな子と一緒にいれて、嬉しいようだね。
嬉しいのは、‥”好き”だからだよ」
「ふーん‥、また恋愛の歌なんだ」

つまらないとレンはふて腐れる。

「レンには難しい?」
「別に。‥ただ、マスターもよく続くなって。自分はしてないくせにさ」
「それは禁句だよ」

あははと苦笑して、カイトは再び楽譜に目を映す。

「溶ける‥、か」

***

「おはよう、お兄ちゃん!」

ミクはスタジオに入ると元気良く隣のカイトに挨拶した。

「おはよう、ミク」
「早く来たの?」
「そう、かな‥。あまり待ってはいなし、練習していたから」

笑みを浮かべて、カイトはインカムを付け直した。

「ミクは、どう?」
「大丈夫!もう、全部覚えたの」

ニコッと笑うとミクは前に向き直る。

「準備はいいか、二人とも?」

スピーカーから篤時の声がする。

「いつでもいいですよ、マスター」
「準備万端ですッ」

二人は同時に答えて、笑みを浮かべた。

「じゃ、音楽入れるぞ」

篤時の声と共にメロディーが流れ出した。

”今日は調子がいいみたい”

ミクはリズムに乗りながら、思った。
隣ではカイトがミクにあわせる様に歌っている。

”お兄ちゃんも一緒だし”

チラッとみて、ミクは思わず笑んでしまう。

「今日は調子よさそうだな、ミク!」

篤時が声をかけてくる。

「あ、ありがとうございますッ」

ミクはその言葉にとびっきりの笑みを浮かべる。
そんなミクにカイトがウインクをすることでほめてくれる。

”えへへ‥褒められちゃったv”

嬉し過ぎて、ミクが困っていると篤時の声がした。

「やっぱ、二人に歌わせて正解だったな。
ミクが歌うと初々しい感じがするし、
カイトは不器用そうな感じがすごく出てる」
「?」

篤時の言葉にミクがポカンッとする。

「お互いに言い出しにくい感じがすごくいいぜ、お二人さん」

からかうような響きの言葉。
ミクはしばし唖然としていたが、意味を悟ってカッと赤くなった。
今までマスターのために必死に、
というだけで覚えた詩が色をつける。
そうだ、これは恋愛の曲。
大好きなカイトを前にミクは自分が
自分の気持ちを吐露するような言葉を
吐いていたことに気が付いて、オロオロした。
カイトも思ったところがあったのか、ミクから目をそらした。

「まだ歌ってもらうから、調子がいいのは持続してくれよ?」

そんな二人に悪戯っぽい声が響いた。

”マスターの馬鹿ッ”

ミクは流れ出したメロディーに小さく文句を言う。
意識してしまうと歌いづらい。

”どうしよう、顔が熱いよぉ”

頭が半ば真っ白で詩が朧になる。

”ダメダメ!!”

ミクがブンブンと首をふる。
瞬間、右手がカイトの左手に触れてミクは硬直した。
それに気が付いたのか、カイトが少しだけあせる。
こうなるとミクはもう、何も手がつかないことを知っていたからだ。
カイトは悩んだが、メロディーは既に歌いだしに迫っている。
悩んでいる暇なんてない。
カイトは意を決して、ギュッとミクの手を繋いだ。
ミクの顔がカイトを見上げる。
”大丈夫”とカイトは微笑んで、頷いてみせる。
ミクはしばらく困っていたが、ニコッと笑ってくれる。
小さな手が握り返してくる。
二人は歌いだした。

「メルト」

重なる二人の声。
重なっている手。
そこから溢れるお互いの熱。

”――――――溶けてしまいそう”

二人の顔が赤く染まった。


*『メルト』はボーカロイドにはまったきっかけなので、想い入れが深いです。
今でも一番大好きな曲です。ちょっとしたその後なおまけあります。


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