『貴方の色』

「みてみて、ミクちゃんっ!!」

そういって、手招きするリンにミクは

「今行くよ、リンちゃん」

と返しながら近寄って、リンに合わせてしゃがみ込む。

「どうしたの?」
「これ!」

リンがたくさん手に持って見せたものは、
小さくて可愛い形の入れ物。
その中になにやら綺麗な色のついた液体状のものが入っている。

「これ、なぁに?」

ミクはリンの持っているカラフルな小瓶を一つ手に取って聞く。

「分からない。でも、とっても綺麗だよっ」

お薬かなぁ?とリンが言うのにミクは

「そうかもね」

と頷き返す。
なんと言っても、ここはドラッグストアー。
篤時の姉、春菜が夏風邪を引いたとかで
忙しい父親に代わって篤時が買出しに行かされたためだ。

「つーか、俺は別に住んでるんだからお手伝いとかに行かせろよっ」

篤時は

”姉さんが風邪引いたから、見舞いに来い ^o^/★”

とかいう父親の陽気なメールに文句をつけながらも
こうやって買い物に出てきた。
ミクとリンはそれについて来ただけだ。

「あ、見てみて、ミクちゃん」
「なぁに?」
「ほら!お兄ちゃんの色っ」

リンがミクに差し出したのはカイトの髪や爪の色と同じ濃い青の小瓶。

「本当だ!」
「でね、こっちがお姉ちゃんで、こっちミクちゃん」

私たちのこれ!と言って喜ぶリンにミクが笑いかける。

「みんなの色があって、楽しいね」

そんな風に和気藹々にやっている二人の後ろから

「ん?なんだ、欲しいのか?」

と篤時が顔を出す。

「あ、マスター」

ミクはスカートを直すと立ち上がって、

「買えました?」

と尋ねる。

「まぁな」

篤時は少し苦笑気味に言って、袋を見せる。

「欲しいなら買ってやるぜ、それ」

篤時の言葉にリンとミクが顔を見合わせる。

「まぁ、夏だし‥女の子なのにおしゃれしないのも
もったいないとか姉さんなら言うだろうし」

化粧品はよくわかんねぇけど、ネイルはピンきりだしなと篤時が言うのに
ミクが慌てて、尋ねる。

「あ、あの‥マスター、ネイルってなんです?」
「これ、なぁに?」

リンが見せる小瓶に篤時が苦笑する。

「なんだ‥しらねぇのか?じゃ、ものめずらしいはずだな」

それで見てたのかと頷いて、説明する篤時。

「爪につけるんだよ。足とか、手とかさ」

まぁ、普通は化粧品だから女のものだけど。

「つーか、ボーカロイドはつけなくてもついているようなもんか」

人間との区別をさせるためか、色のついたミクやリンの指を見て篤時が言う。

「なんで、爪につけるんですか?」
「お洒落だよ、お洒落。意味なんてねぇよ」

いろんな色だと楽しいだろ?と言う篤時になるほどとミクが頷く。
リンはそれを聞いて、傍にあったピンク色の液体が入ったのを指差す。

「欲しいっ!私、ピンクが良いよ、お兄ちゃんっ!!」

それを聞いて篤時が

「そうだな‥リンやミクはあんま欲しいものねだらないから買ってやる。
暑い中、わざわざ俺についてきてくれたしな」

と言うとリンが持ってきた小瓶を手に取った。

「ミクは?」

尋ねられて、ミクが慌てる。

「わ、私は別に‥」
「ミクちゃんはこれ!!」
「え?」

慌てている間にリンが篤時の手に青い小瓶を乗せる。

「へぇ〜‥」

篤時がちょっと意地悪そうに笑う。

「り、リンちゃんっ、私はっ!!」

ミクが赤くなってワタワタするのを篤時が笑う。

「似合うかは別として、いいんじゃねぇの?”好きな色”にしといた方が」
「ま、マスターまでっ!!」

そんな風にからかう篤時の腕をミクが少しだけ叩いた。

***

「塗ってみるっ!!」

篤時の夕食が終わるとリンがそう叫んで、篤時の膝に座る。

「あぁ‥そっか。そうだな、塗ってやる」

リンを膝に乗せながら、篤時は頷く。

「あ、ま、マスター、私にも」

ミクが傍においてあった、小さな紙袋を手に篤時の横に座る。

「なに?塗るって?」

そこにメイコがデザートを持ってきて、覗き込む。

「ネイルだよ。
リンとミクが俺についてきてくれたから、 お礼にやったんだ。
‥リン、手、出しな」

リンの右手を取って、篤時がその指に綺麗に色をつけていく。

「へぇ〜‥篤時、上手いじゃない」
「姉さんの塗ってたからな」
「じゃあ、後で私も塗ってもらおうかしら」

笑いながらメイコは机の上にデザートを置く。

「うにゃぁ〜‥お兄ちゃん、これ変な匂いっ」

リンはネイルの匂いに顔をしかめる。

「我慢しな、もうすぐ終わるからさ」
「ミクのは私が塗ってあげるわよ」

メイコはジッと見ているミクを手招きする。

「あら、綺麗な青じゃない」
「あ、あのね、お姉ちゃん、私別にお兄ちゃんと一緒がいいとかじゃ」

赤くなってアワアワする妹にメイコが笑う。

「ふふ、大丈夫。綺麗に塗ってあげるから」

任せておきなさい、お姉ちゃんに!と言うとメイコはキャップを開けた。

「あれ?マスター、なにやら両手に花になってますね」

そこにカイトとレンが入ってくる。

「見てみて、レンくん!ピンクっ」

リンは

「まだ乾いてないからなっ」

という篤時の声を背に、レンに爪を見せる。
レンはピンク色になった自分の妹の爪にびっくりしつつも、

「可愛いじゃん」

と褒める。

「えへへっ、でしょ〜vお兄ちゃんが買ってくれたの!
レンきゅんも同じ色に塗ってもらおうよ!お揃いっ」

リンは褒められて嬉しいのかにこにこしながら、レンの腕を引く。

「なに?レンも?しかたねぇな‥」

篤時はそう言いつつも楽しそうだ。

「あ、私が次って言ったじゃない、篤時っ!」

ミクの爪を乾かしているメイコが少しだけ不満そうに言う。

「メイコは最後。ちゃんとやってやるから待ってろよ」

篤時はそう返し、レンを膝に乗せる。
そんな様子をにこにこ見ていたカイトがミクの傍による。

「ミクは何色なの?」

覗き込まれて、ミクが慌てる。
でも、手はメイコが握っているので隠せない。

「みて、カイトとお揃いになっちゃった」

いいでしょ〜とメイコがミクの手を見せる。
ミクは恥ずかしさに真っ赤になる。
カイトはしばらく黙っていたが、

「本当だ、俺と一緒。ミク、可愛いね」

と感想を述べた。
その言葉に一層ミクが赤くなる。

「今年の夏は、ミクと俺お揃いかぁ〜‥」

と呟くカイトにミクが小声で

「お、お揃いでもいいの、お兄ちゃん?」

と尋ねる。

「いいよ。というか、
ミクが俺の色が好きで塗ってくれるなんて 思わなかったから嬉しいよ」

俺もミクの色好きだけどとカイトがあっさり返す。

「ほ、本当に?お兄ちゃん?」
「うん、本当に」

それにしても綺麗に塗ってもらったねとミクの手をとるカイトを見て

「天然はいいよな、本当」

得だよ‥とレンの指を塗りながら篤時が笑う。
ミクの手を離したメイコが篤時に近寄って

「ミクの爪先まで自分の色に染めといて、気が付かないなんて幸せもんよね」

笑って返す。

「まったくだ」

二人の楽しそうな顔を見て、篤時が頷いた。



*ネイルが好きです。
 本格的なのはしないけど、塗るのが好きです。
 今年はメイコ姉さんカラーな私です(笑)
 大好きな「ミラクルペインティング」とネイルからヒントを得て、
 カイミクを書いた筈がボカロ家族大集合になってしまいました。
 兄さんは天然に格好いいことをさらっと言えばいいです。
 篤時は大人な余裕ならいいです。
 レンはリンをお姫様扱いしていれば良いです。
 そんな三者三様も書けて楽しかったです。
 おまけにマスメイなちょっとしたお話あります。

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