「はぁ‥なんで俺、こんな生活してんだろうな」
篤時はスーパーの袋を下げて、文句を言う。
「好きで家を出たんじゃないの?」
右隣を歩いているレンがボソッと言う。
「そうなんだけどさ」
「お兄ちゃん、重いなら持ってあげるよ?」
「サンキュー、リン。けど、男だから持てるの」
優しいなぁ、リンは‥と左隣のリンを撫でる。
「あのさ、篤時?」
「あ?」
「嫌なら帰れば良いじゃん、自分の家だろ?」
見上げてくるレンの大きな瞳に視線を逸らして、篤時は苦笑い。
「それは無理なんだよ」
「なんで?」
「‥色々と俺にもあるんだよ」
「お兄ちゃんって大変なんだねぇ〜」
「そうそう、大変なんだよ」
はぁっとため息をつく篤時をリンがオロオロと見上げる。
途端
「おい、そこの兄ちゃん、今ガンつけただろ?」
といかにもな男たちに呼び止められる。
「んだよ‥してねぇよ」
篤時はめんどくさそうに振り返る。
「てめぇ、その態度はなんだよっ!!気にくわねぇ」
「いちゃもんつけるんじゃねぇよ、面倒くせぇ」
篤時は無視して立ち去ろうとしたが。
「にゃぁ!?」
「うわぁ!?」
という見事にはもった声に足を止めた。
リンとレンが捕まったのだ。
「こいつらがどうなってもいいのかよ」
男たちはただ単に憂さ晴らしがしたいだけらしい。
レンがもがく。
「離せっ!!リンに触るなっ」
「うにゃぁ〜、レンくーんっ、おにいちゃーんっ!」
リンはワタワタと暴れる。
篤時は相変わらず歩みを止め、背を向けたまま。
「おい、聞いてんのかよっ!?」
男の一人がそう言った瞬間、ギロッと篤時が振り返りながら睨んだ。
その顔はものすごく怒っていて、迫力がある。
「だから、てめぇらの相手をしている暇はねぇって言ってんだろうが」
どすの利いたその声に男たちがたじろぐ。
「しかもよぉ、俺の可愛い弟と妹に何しくさってんだよ、てめぇら!
一発殴る程度じゃ、気が済まないぜ、今の俺は」
凶悪な顔はいつもの二倍増し。
「う、うるせぇ!!やっちまえ」
男たちがかかっていく。
篤時はニッとまるでヤクザものの映画に出そうな凶悪顔で笑った。
***
「ったく‥くだらねぇよ、本当」
パンパンッと手を叩いて、篤時は走り寄ってきた双子を抱きしめた。
「平気か?」
「うんっ」
「まぁね」
口々にそう言う双子に安心してから、
篤時は思い出したようにスーパーの袋の中を見てギョッとする。
「卵割れたじゃねぇか!?‥ついてねぇ〜‥」
だから買い物に出るのは嫌いなんだよとぶつぶつ文句を言いながら、先を歩く篤時。
その背中を見てリンがレンにこっそり言う。
「お兄ちゃん、喧嘩強いねぇ〜。怪我一つもしてないよ?」
「当たり前だろ。‥俺の師匠だし」
背後から羨望のまなざしを受けているとは知らない篤時は
今晩のメニューに頭を悩ますのだった。
終
*うちのマスター、篤時にスポットをあててみました。
マスターとして作ったわりに好きなキャラです。
本当はもっと影に徹してくれてればいいのですが、結構出ている(苦笑)
頼りになる一家の柱でいて欲しいです。
ちなみに篤時はお坊ちゃまのくせに、喧嘩強いです。
どういう生い立ちなのか、私も謎です。
双子による後日談なんかがあります。
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