『連呼』



「遅いっ」

怒鳴って、三成はウロウロと部屋の中を忙しなく歩き回る。

「左近はなにをしている‥」
「少し落ち着いたらどうだ、佐吉?」

そんな三成とは反対に吉継は正座をして、落ち着いて言う。

「これだけ待たされているのに落ち着ける訳がないだろっ」

苛立たしげに言う三成に吉継は苦笑する。

「左近とて、やることがあってこちらにまで手が回らないのだろ?
ゆっくり待っていればいつか来る」
「‥悠長な事を言うな、紀之介。左近が来なくては戦の策を立てられない」
「別段明日に迫ったものでもないだろ?」
「それはそうだが‥。約束は約束だ。その時間に来なくては困る」
「手厳しいな、佐吉は」

小さく笑う吉継の目の前に座ると

「笑い事ではない。
左近がよい策を練ったというから時間を取ったのに来ないのでは意味がない」
「少しくらい待ってやれ」
「少しは待った。でも来ないではないか」

拗ねたような顔でそっぽを向いた三成に吉継はしばし黙っていたが

「佐吉はここのところ、ずっと口を開けば左近だな」

と呟いた。

「なに?」

意味が分からないという顔を向けた三成に

「そこまで信頼しているのなら、時間に遅れるくらい許してやったらどうだ?
お前とて、くだらないことで喧嘩して左近を失いたくはないだろ?」

そう言う。
三成はしばらく黙っていたが、落ち込んだように顔を伏せて

「‥それはそうだが」

と呟く。

「それにな、佐吉」
「?」

顔を上げた瞬間、吉継の唇が三成のそれに重なった。

「き、紀之介っ」

真っ赤になって逃げそうになる三成を吉継はつかまえて笑う。

「そのように左近、左近と連呼されると
俺はいらない誤解でどうにかなってしまいそうだよ」

悪戯っぽく言う吉継に三成は一層赤くなる。

「お、俺と左近はそういう関係じゃ」
「分かっているさ」

再度吉継が三成に口付ける。

「お前は俺のだよ、佐吉」
「っ!?」

とびっきりの笑顔で言われ、三成は赤くなった顔を伏せて黙ってしまう。

「左近がお前の傍にいないときでも、俺は傍にいる。
だから、たまには俺の名を連呼してくれてもいいのではないか?」

三成はためらった後、

「‥す、すまない‥、‥紀之介」

と小声で呟いた。

「分かってくれればいい」

吉継はそんな三成に小さく笑うと解放してやった。
だが、三成はその場から立ち上がることも、動くことも出来ずにいる。

「どうした、佐吉?」
「‥‥た」

三成は小声で呟き、なにやら困っている。

「なんて言ったんだ?」

吉継が再度問えば三成は怒ったように

「立てなくなったっ!!
紀之介がいきなりあんなことをするから、立てないっ」

と叫んだ。
その答えに吉継が笑う。

「立てないのか、‥それはいい。
左近を呼びに行くこともなくなって、俺は安心だ」

意地悪な笑みで言う冗談に

「笑うなっ」

と三成が困惑しながら怒る。

「手伝ってやろうか、立つのを」
「当然だっ!!
立てなくしたのはお前なんだから、手伝いくらいちゃんとしろ」
「そうだな。‥すまなかった」

吉継は笑うと三成を突然押し倒す。

「き、き、紀之介っ!?」
「悪い。‥余計に立ち上がらせたくなくなった。
構わないだろ?まだ左近は来ないよ」

甘く囁いて、吉継はまた三成へと口付けを落とした。



*久しぶりに吉継×三成が書きたかったので書いてみました。
 たぶん、この後入れなくて困っている左近の姿が目に浮かぶ(笑)
 最近三成も五助も左近なので、
 吉継は面白くないだろうと思ったのでそんな感じで書きました。
 私だって、最近は左近に浮気気味だしね‥(え)


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