『誕生日の贈り物』



「別にない」

その答えに大膳は笑顔を崩さず、

「確かに貴方の手に入らないものなどないですけどね」

と返す。

「お前から貰いたいなどとは思わん。
第一、こんなめでたい日に何故最初にお前と会わねばならん?」
「それは私が貴方のお誕生日を把握しているからですよ」

そして、こうして独り占めしているからですとにっこり言う大膳に
忠之は不機嫌そうに頬杖をつく。

「ならばとっとと俺の前から失せろ。‥それが一番いい贈り物だ」
「それは丁重にお断りします」
「なんだと?‥お前、先ほどなんでもいいと言ったではないか」

俺に嘘を言ったのか?と問う忠之に

「そんなつもりは。‥ただ、今のは私が気に入りません」

ないがしろにされて祝ったなどとは言えませんよと返す。
忠之はそれに舌打ちをして、視線を逸らす。
そんな忠之を見て、大膳は穏やかな口調で言う。

「そうですね‥、今年のお祝いは私自身というのは?」

その言葉に忠之が目を見開き、‥そして大笑いする。

「お前、それを本気で言っているのか?」
「えぇ、私は大真面目ですが?」
「俺がお前を貰って喜ぶとでも?」
「少なくとも、大喜びはせずとも満足していただけるとは思います」

自信満々に言う大膳に忠之は笑みを消すと

「それはいらん」

とハッキリ言った。

「何故?」

大膳は笑みを浮かべたまま問い返す。

「もういらないからだ」
「私が居ずとも良いと?」
「誰がお前がいないでもいいと言った?」

忠之は大膳に近寄るとハッキリと言った。

「お前は俺が生まれたときに貰ったものだ。
だから、もう同じものはいらん」
「!?」
「それとも‥お前は俺になにか渡していないものでもあるのか?」

ん?とニヤニヤしながら尋ねる忠之に大膳は苦笑する。

「いいえ‥私の身も心も既に貴方のものですよ。
貴方が仰ったように、貴方がお生まれになったときからずっと」
「ならば、違うものにするんだな。‥それでは満足できん」

楽しそうに笑って忠之が言う。

「えぇ、そうですね。‥違うものに致します」

大膳はそう言うなり、忠之をゆっくりと床に押し倒す。

「これが違うものか?」

眉を寄せて尋ねられたことに大膳はにっこり笑うと

「大人になられた忠之様にはこれがよろしいかと」

と呟く。

「大人でなくともしてたではないか」

結局お前が楽しいだけだなと皮肉気に呟かれた言葉を唇で塞ぎ

「大人には大人の扱いというものがありますよ。
もちろん、‥いつも通りなんてケチなことは申しません。
いつもよりずっと‥」


大人しかできないことをして差し上げますよ。


大膳の言葉に忠之は楽しそうに笑うと

「興味がある。‥貰ってやろう、お前の祝いとやらを」

と口にした。
大膳は耳元に唇を近づけて囁いてやる。


「お誕生日おめでとうございます、‥我が殿」



*拍手でつかったものです。
 誕生日でもどっちも譲らない黒田家子世代‥(笑)
 大膳が忠之を丸め込むのは珍しいので、なんだか新鮮でした‥。
 ともかくも、忠之お誕生日おめでとうっ!

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