『誘ったのは』


「どうしてそのような格好をされるのです」

大膳は頬杖をつき、だらしなく座っている忠之に呆れたように尋ねる。

「お前に注意される覚えなどない。俺の勝手であろう?」
「お風邪を召されます」

失礼しますと断りを入れ、大膳は忠之のはだけた着物を直す。

「口煩すぎではないか?」

半ば呆れるような、皮肉るような調子で忠之は言う。

「当たり前です。
殿がご病気になられれば、皆が心配なさいます。
それに、一国一城の主がだらしない格好でいる等ということは
あってはならないことに御座います」
「案外、お前が欲情するから直すのではないのか?」

その言葉に大膳の着物を直す指が止まる。
忠之はクッと小さく笑う。

「図星か?」
「‥それなら、なんとなさいますか?」
「さて‥。別になんとも思わぬ。俺はお前に興味がない」

欲情もしないと忠之は嘲笑うように言って、大膳を見つめる。
その瞳が楽しげな色へと変わっている。

「試していらっしゃるのですか?」
「何をだ?」
「私が殿に対して、不忠者となるべきか忠臣でいるべきか」
「お前が忠臣とは、笑える冗談だ」
「お戯れを」
「お前こそ、戯れ言を言うな」

本音を晒しているようなものだと忠之は笑う。

「ならば、もし私が貴方に欲情するとしてここで突如襲っても許されますか?」
「何故?」
「貴方が私を誘ったから‥」
「くだらない」

ハッと鼻で笑うと忠之は大膳を睨み付ける。

「誰がお前に身体を任せるものか」

忠之の言い放った言葉に大膳は目を伏せる。

「ならば、そのような格好はおやめ下さい」
「じゃあ、お前は欲情したと正直に吐け」
「それとこれになんの関係が御座いますか?」
「お前こそ、俺に構っていないで政務に戻ったらどうだ?」

一歩も譲らない忠之に小さく大膳は溜め息をつく。

「貴方は酷い」
「何が言いたい?」
「私を飼い殺す気だ」
「ほぉ‥?」
「そうやって、私の気持ちばかり揺さぶって試す。
私に興味などひとかけらも持っていらっしゃらないのに」
「そこそこの興味はあるつもりだが?」
「そこそこ?」
「からかう程度には、な」

大膳が眉を寄せ、不愉快そうな顔になる。
それを見て、ニッと笑うと忠之は大膳に迫った。

「俺がお前を誘うといったな?」
「‥‥」
「何故、乗らない?」
「‥不忠者ではありません故」
「俺がここで”抱いて欲しい”などと言ったら、乗るか?」

忠之の言葉に大膳の指が着物を割るように滑り込む。

「とんだ忠臣だな」

滑り込んでくる指に忠之が笑う。

「貴方が今、誘ったのでしょう?」
「たとえを言っただけであろう?」
「たとえでも、誘ったら火傷ではすまない事もありますよ」
「欲情したか?」
「もう少し、可愛らしくねだっていただきたかったものですが」

大膳は素っ気無く言うが、指は熱を持っている。

「十分欲情したやつの言う台詞ではなのではないか?」

可笑しそうに笑い、忠之は大膳に身を任せどちらともなく、床に崩れていった。




*前のHPにあったものです。
 当初何を思って書き始めたのか今になっては分からない感じのが残っていまして、
 ベースはそのままで改めてこんなにしました。
 この場合、どちらかがどちらかの手に乗ったら負けなわけですが
 結局お互い乗っているので相子かと(苦笑)
 忠之は大膳を好きじゃないのですが、
 ご機嫌がいいときのみからかっている的な感じです。
 なので、機嫌がいいと素直に大膳の意のままになることもあります。
 長政より扱いやすいかもしれない‥。
 い、いや‥普段あれだから微妙か‥。
 何はともあれ、黒田子世代も好きです!

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