不気味なほど寒く、暗い夜。
闇夜を怯えていたのは、もっと幼き頃。
今はそれほど怖くはない。
吸い込まれるように身体を手放せば、さほど気にはならない。
そう、それでいい。
昔のように、誰かの手に縋りたいなど思いやしない。
***
吐き出す息が白い。
すっかり冬になったという事だろう。
忠之は廊下を歩きながら、暗闇に浮かぶ月を見上げる。
今夜もまた、何処か物悲しい。
人恋しいなどと思うようになったのは、物心ついてからだ。
それもこれも、あの男が教え込んだからいけないのだ。
冷たくなった手を合わせ、擦りあわせる。
冷え切った手は暖まらない。
それでも、忠之はその場を去らない。
去りがたいからだ。
何故だか、忠之には分からない。
ただ、部屋には戻りたくなかった。
「殿」
声をかけられ、振り返る。
「このような寒いところで何をなさっておいでですか?」
「‥何もしていない。見れば分かろう?」
声をかけてきたのは大膳。
忠之は少しだけ迷惑そうな顔をして見せる。
だが、相手は少しも揺るがない。
「さぁ、‥見ても分かりませんでした。
寒くなってしまわれますよ?」
手に触れてくる熱。
忠之は逃げもせず、そのまま受け入れる。
「あぁ‥、こんなに冷たくなってます」
大膳の一回り大きな手が忠之の手を包み込む。
「さぞお体も冷えていらっしゃることでしょうね。
風邪を召されるから、
薄着で外にお出になるのはおやめ下さいと言った筈ですよ?」
やんわりと言い含められる。
「喧しい。‥聞きとうない」
それをハッキリと拒絶し、忠之は大膳から目をそらす。
「殿」
「なんだ?」
「懐かしゅう御座いますね」
僅かに大膳の口元が緩む。
「幼き日、このように二人で月を見上げた事も御座いました」
「‥‥」
「あの頃も、貴方様は薄着でお出になり、次の日に熱を出して‥。
ははっ、本当に、懐かしい。
それでも、変わっていませんね、殿は」
「忘れてしまった、そのようなこと」
大膳の手を振り払い、忠之は彼の肩に羽織っていた着物を奪い取った。
「寝る」
一言短く言うと、踵を返す。
大膳が僅かに驚愕し、目を見開く。
しかし、静かに一言。
「おやすみなさいませ、忠之様」
とだけ囁く。
それを背に聞きながら、忠之は思う。
幼き頃、大膳の側にいたくて背伸びし続けた自分を。
「ほんに、‥どうでもよい過去に成り果てたな」
今じゃ、あの男と夜を過ごしたいと思わぬわ。
背後の気配を感じながら、忠之は想いと共に白い息を吐き出した。
終
*HPから持ってきました。
今回は忠之視点です。
このCPはどちらもが本心をなかなか見せないので、
くっつかなさすぎてじれます‥(オイ)
前回も書きましたが忠之は基本的に大膳が嫌いです。
それもこれも子供の時に大膳が自分を殺そうとしたことに
あるのですが、要は裏切られたと思っている節があります。
+して、自分より歳が上で自分の過去を知っている人物なので
疎ましくも思っています。後は性格かな。
忠之は長政のツンデレとはかけ離れた俺様なので、
自分が貶められる行動、言動を嫌悪します。
大膳はわざとそう言うことを言うので‥(汗)
この二人はくっつくのか甚だ疑問を拭えません。
まぁ、少しずつ前進してくれればいいのですが。
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