桜華茶房

『仮の恋人』


夕暮れにオレンジ色に染まっている教室の中、
忠之はゆっくりと口付けていた唇を離した。

「可笑しいですね」

沈黙を破って、先に言葉を発したのは、
口付けられていた利章。

「何がだ?」
「私と貴方のことです」
「俺とお前?」
「えぇ。だって、貴方は私を嫌いだというのに
この通り‥、こんなことをする間柄です」

可笑しくないとしたら、なんなのです?
その問いに忠之は笑う。

「なんだ?俺とはしたくなどないか?」
「いえ、滅相もない。
貴方とこういうことができて、嬉しいですよ」

にっこり笑う利章に、
忠之は「現金な男だ」と呟き

「お前は、ある意味で虫除けだ」

ハッキリ口にした。

「虫除け?」
「あぁ、余計な虫を構ってやるつもりなどない。
俺に恋人が出来るまでの、」
「要するに、仮の恋人ということですか」
「そうだ。光栄だろ?俺の”恋人”の地位で」
「ありがたくて、泣きたくなります」

忠之の言葉に、利章は声を出して笑い

「でも、私は本当の恋人になりたいのですが」

と口にする。
忠之はそれに答えることなく、

「まぁ、見ていろ。最高の恋人とやらを見つけてみせる」
とだけ自信満々に返す。
利章は、それに苦笑してから突然真面目な顔になって

「言っておきますが、
貴方の最高の恋人‥とやらは現れませんよ」

と断言した。

「ほぉ?何故だ」
「私が貴方の最初で最後の”最高”だから」

私以上のいい恋人がいますか?と紡ぐ唇を見つめ、
忠之はしばらく呆気に取られた。
だが、すぐ声を出して笑う。

「言い切ったな?‥随分と自信ありだな?」
「えぇ、自信ならあります。
貴方を満足させること、
悦ばせること、なんだってできますよ」
「‥大した自信だな」
「当然でしょう?‥貴方を私のものにしたい。
それだけで、貴方の傍にいるのですから」

利章の言葉に忠之はクッと

「悪いな。‥お前の言葉じゃ、ときめかない」

そう笑った。

「残念です、‥ときめいて頂けなくて」

でも、そのうちに‥そんな風に紡いだ利章の唇に
忠之は己のを再度近づけながら

「悪いが、‥一生お前にときめくことなどない」

と意地悪く呟く。
その唇を今度は、利章が塞いだ。





*日記にあげたものを、
 見れない方もいるそうなので再度UPしました。
 イベントの準備の最中に書いたものです。
 現代パラレルくらい、
 ラブラブだっていいじゃないかと思いまして。
 なんだかんだ言って、忠之には大膳しかいないと思われます。
 だって、絶対大膳が必要以上に邪魔者を払ってくれそうなので(苦笑)


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