桜華茶房

『疎ましい熱』


優しく触れてくる口付けなのに
嫌だと拒むけど、拒ませない。
舌を絡み取られ、そのまま深く深く口付けられる。
許し難い所行なのに、流されていく。

「離せっ」

強く押し返して、唇を拭う。
大膳が少しだけ楽しそうに笑った。

「何故?」

何故?とは、白々しい。
どうせ、答えなど聞いてやいないのだ。
所詮俺は大したことを答えられないと、そう思っているからだ。

「十太夫と出来て、何故私と出来ないと拒むのですか?」

またそれか。
聞き飽きた。
お前は小姓じゃない。
そう言えば、

”小姓なんかよりずっと、貴方を慕い、想っています”

そんな風に返すのだ。
聞きたくない。
そんな戯れ事。
大膳の視線、声、熱‥全てが堪らなく嫌だ。
傲慢だと人は俺を罵るが、
俺に言わせれば大膳の方がよっぽど傲慢だ。

「お前に抱かれるのが嫌だからだ」

そう言えば、大膳は微笑み、至極当然のように

「では、殿が私をお抱きになりますか?」

などと言った。
これにはさすがにむっとした。
誰がお前など抱くか。
心の中で吐き捨てる。
その間も大膳はよどみない手つきで、俺の着物をはだけさせる。
滑るような動きで俺を翻弄しようとする指。
気にくわない、気にくわない、気にくわない‥。

「睨まないで下さい、殿。せっかくのお顔が台無しですよ」
「お前のために笑う顔は持ち合わせておらん」

しかめっ面のまま言い放てば、大膳は少しだけ困った顔をした。

「私では‥、殿を満足させる事は出来ないのですね」

ポツリと呟かれた。
当たり前だと、いつも通りの文句を言い放って良かった筈だ。
それなのに、腹立たしいことにそれは声にならなかった。

「こんなにも、愛おしいと思っているのに」

はだけられた着物から見える胸から腹にかけて、
大膳が口付けていく。

「っ!?」

身体がビクッと粟立つ。
嫌だ、嫌だ、嫌だと拒絶するのに、
身体だけは素直に愛撫に従ってしまう。
それもその筈だ。
この男が俺に、それらを教えたのだから。
下半身へと口付けが落ちていく。
大膳の瞳が、挑発的に俺を見てくる。
分かっている。
お前が言いたいことなぞ。
その言葉を最後まで言わせてやるつもりは、ない。

「無礼者」

全ての憎しみを込めて言い放った言葉。
大膳が、弱々しく笑った。

「んっ!?」

突然、痛みが走り、頭が一瞬だけ真っ白になる。
そこで大膳が俺の肌を噛んだと気がつく。
だが、声にはしない。
そんな弱みを見せてやる気はないからだ。

「殿」

大膳の掠れた声が俺を呼ぶ。

「貴方のすべてを、欲しい」
「やらぬと言っても、もう遅いではないか」

半分くらいは悔しいことに握られている。
文句を言えば、そうですねと大膳は軽く笑う。

「だが全てなど、‥渡してはやらん」
「拒絶には、‥慣れていますから」

そうとだけ言って、大膳は喋るのをやめた。
襲ってくる痛みと曖昧な快楽の波。
熱い‥。
この熱が、疎ましい。
それなのに、俺はこの熱に身体を預けている。
それが、疎ましい。
苛立つ。
気持ちいいと感じる身体と、縋り付こうとする手と、
一瞬でも心地良いと感じる自分。
全てが腹立たしい。


だから、こいつに好きにされるのは嫌だ。


迫り来る快楽の波に思考を任せてしまう自分を
忌々しいと感じながら、フッと思った。





*少し前にちょっとずつ書いていた大膳→忠之。
 前に書いたので、いつもよりギスギスしています‥(汗)
 忠之は己が機嫌がいいときに誘うのは別として、
 大膳からこういうことするのは嫌いです。
 どう違うんだ‥とか言わない(苦笑)
 俺様なので、主導権を握られるのが大嫌いです。
 けど、大膳は基本少し腹黒なので
 良い様にされるだけなのが嫌いなので
 結果、たまにこうなるわけです‥。


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