夜も更ける頃。
廊下を歩く秀長は奥から誰かが来るのに気がついた。
近づけば、それが己の部下だと分かった。
こんな時間に己の部下である高虎がここを歩いているのを不思議に思い、
より一層近づいてみる。
「どうしたの、こんな時間に?」
優しく尋ねると高虎が少しだけ笑い、
「‥小一郎様」
と突然耳元で甘く呟かれる。
いきなりのことに慌てていると唇を重ねられて、一層困惑する。
拒絶する理由を持たない秀長は真っ赤になって、されるがままになっている。
だが心の中は、いつもはされないようなことをされて大いに驚いている。
「高虎が‥何故?」と何度も繰り返して自問する。
ダメだ‥、落ち着かなきゃ‥。
秀長は流されそうな自分をなんとか保とうとする。
落ち着いて冷静考えてみれば、なんだか高虎は酒臭い。
酔っているんだろうか?と思った途端、高虎の身体が秀長に倒れてきて
「た、高虎っ!?」
となんとか受け止める。
とはいえ、秀長と高虎では体格差があり、上手く受け止められない。
「大丈夫?」
なんとか自分の体制を保ち尋ねてみるが高虎の返事はない。
どころか、小さく寝息を立てているのだ。
秀長は呆気に取られ、‥笑った。
「そうだよね。‥高虎が私に進んであんなコトしたりしないよね」
そうは言うが寂しくもある秀長。
「高虎はズルイよ‥。
そうやって、私だけ慌てさせて自分は忘れてしまうんだろ?
お前に本気なのは、私だけ?」
囁くように耳元で呟いた。
***
目覚めた高虎は自分の隣に秀長が寝ているという事実に呆然となった。
昨夜の記憶はない。
隣を見れば己の主はまだスヤスヤと眠っている。
何故、自分は主と同じところで寝ているのだろう?
それが思い出せず、頭を抱える。
頭痛が酷い‥。
酒のせいに違いない。
こんなことなら、無理して飲まなきゃ良かった。
まさか、こんなことになるとは思わなくて。
だが、高虎は改めて自分と秀長を見て、
目に付くおかしい所がないことに気が付き、安堵した。
どうやら自分はここに来て寝てしまっただけのようだ。
それなら、それでいい。
いや、‥そうであって欲しい。
そんな風に思っていると秀長が目を覚ました。
「秀長様‥、あの、申し訳ありません」
自分がここで寝てしまったことに対して謝ると秀長はキョトンとしていたが、
ゆっくりと微笑むと
「別に構わないよ。高虎は酔っていたみたいだし仕方ないよ」
と返してきた。
あっけらかんとした様子に高虎は自分が何もしていないことを確信し、
「それじゃあ、私は秀長様にご無礼なことはしていないのですね」
と尋ねた。
秀長は相変わらずの笑顔で
「無礼?ううん、そんなことされてないよ」
と口にする。
その答えに高虎が安堵の息をつこうとした。
途端、秀長が
「けど、‥今日は高虎のせいで腰が立たないかも‥」
と、とんでもないことを口にした。
「え!?」
まさかと思い高虎は秀長を見る。
すると秀長は、いつもは見せないような艶っぽい笑みを浮かべ
「手加減なかったから」
と呟いた。
カァァッと高虎の頬が一気に赤く染まる。
どうしていいのか分からず、言葉も出ず、焦る。
その上、自分に記憶がないことに一層焦る。
そんな高虎を見つめ秀長は想う。
”本当はなにもされてないんだけど”と。
自分だけ焦らせられるのは、悔しいから。
自分だけ想っているなんて、そんなの寂しいから。
赤い顔で困る高虎の様子に秀長は心の中で呟く。
”高虎の本音を教えて”‥と。
そのためなら、少しの嘘は許してと心の中で謝り、
秀長は高虎の次の言葉を待った。
終
*最近采配に偏っていたので、こっちを書くのは久しぶりです。
強い秀長様とタジタジな高虎がなんだか新鮮でした(笑)
秀長様はいざとなったら、意地悪ならいいです。
高虎は鈍感じゃないけど、‥たまに疎いといいです。