『膝枕』



「寝不足?」

秀長の問いにハッと高虎が気がつく。
目をこすりながら

「い、いいえっ‥そういう訳では」

と答える。
だが、どう頑張っても頭はぼんやりしたままで、
到底しっかり目が覚めているとは言い難い。
気がついているのか秀長は穏やかに笑いながら

「暖かいね、今日は」

と隣に座る。

「はぁ‥、そうですね」

高虎はうたた寝しかけていたので、気まずくて顔が上げられない。
フッと横目で机の上の書きかけの紙に目をやって、
急いでグシャグシャと丸める。
そこには文字とは思えないものが書かれていたからだ。

(何をやっているんだ‥)

うたた寝したことを恥じて、高虎が黙っていると

「こんなに暖かいと眠くなるね」

とにっこり秀長が言う。
突然図星なことを言われ、カァァッと高虎は赤くなって

「す、すみませんっ、秀長様!!実はうたた寝を‥」

と謝り、頭を下げる。
秀長はそんな高虎を見て、小さく笑うと

「悪い子だね、高虎は」

と呟く。
高虎はその言葉に下げた頭を戻すことが出来なくなった。

(‥呆れられてしまった)

ショックに項垂れていると

「そうだな‥、小一郎って言いなおしたら許してあげるよ」

と秀長が楽しそうに言う。
高虎はその言葉に勢いよく頭を上げると

「も、申し訳ありませんでした、小一郎様っ」

と必死に謝る。
それを見て、秀長が可笑しそうに笑う。

「うん、許してあげる。
‥というか、元々怒ってなんかいないよ」
「え」
「高虎があまりにも慌てるから、少し意地悪言っただけ」

ごめんねと微笑む秀長に高虎は胸を撫で下ろす。

「そう‥でしたか。呆れられて嫌われたかと」
「考えすぎだよ。私がいつ高虎を嫌いだなんて言った?」
「そうですね、考えすぎでした」

高虎がしょんぼりしていると
秀長は自分の正座している膝をポンポンっと叩く。

「なんですか?」
「ここ。‥寝ていいよ」

にっこりと笑って言う秀長に高虎が慌てる。

「ま、まだ、からかっていらっしゃるんですかっ!?
うたた寝したことは謝りますから、もう忘れてください」
「からかってなんかいないよ?」
「‥え?」
「だから、‥寝ていいよ」

ね?っと微笑まれる。

「そ、そんなことは‥」

させられないと言いたい高虎だったが、秀長の笑顔には逆らえない。

「で、では‥寝ませんが、少しだけ」

諦めた高虎は申し訳なさそうに秀長に膝枕をしてもらう。

「少しといわず、寝ていいよ」

秀長は穏やかに笑うと高虎の髪を撫でる。

「で、ですがっ‥それでは疲れている秀長様に申し訳ないです」
「いいんだよ。
だって、高虎が私の膝で寝ていれば誰も邪魔できないでしょ?
ほら、‥私も仕事が堂々とさぼれる」

悪戯っぽく言う秀長に苦笑する。

「そこまで考えて、こうなさったのですか?」
「ん?うーん‥、どうだろうね」

秀長はしばらく考えていたが、高虎に微笑みかけると

「ただ単に私が高虎にこうしたかっただけかも」

と嬉しそうに言った。
高虎は赤くなって、視線を彷徨わせる。

「暖かいね‥、気持ちいい」

秀長は高虎の髪を撫でながらも、視線を外へ向ける。
心地のよい風が通っていく。
高虎は瞳を閉じると、高鳴る自分の心臓に耳を傾けた。

(こんなに緊張してたら、眠れないだろうな)

心の中ではそう思ったが、心地のいい暖かさに
高虎はいつの間にか眠りに落ちていた。



*なんとなくですが、秀長様には日当たりのいい縁側が似合う気がします(え)
 縁側じゃないですが、暖かい日の大和大納言主従のお話。
 秀長様はいつでも高虎にとって”ズルイ”存在でいて欲しいです。
 「いいよね?」って言われて、ダメといえない存在でいて欲しい(笑)
 それにしても‥秀長様は細そうなので、
 高虎が膝枕させてもらったら折れちゃそう‥(汗)
 むしろ、足が痺れて後に立てなくなってそうです‥。


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