「恋煩いなほど、熱き想いよのぉ」
「は?」
そう言われ、高虎は目を丸くした。
「いや、なに、お主と小一よ」
「秀長様が何か?」
「分かってないときておる。ますます憎らしきことよなぁ」
「はぁ‥」
秀吉の言葉が分からず、高虎はただ合間に返事を返す。
「羨ましいのぉ‥小一は。このように良き部下を持っておる」
「それは秀吉様とてそうではありませんか」
「さて、それはどうかのぉ‥」
秀吉は意味ありげに笑い、頬杖をついた。
***
「帰ったんだね、高虎」
声をかけられて、高虎は立ち止まった。
「秀長様」
「二人の時は小一郎で構わないと言った筈だよ」
にこっと微笑み、秀長は単衣の上に着物を引っかけただけの姿で現れた。
「またそのように寒い格好で。お風邪を召されます」
「もうひいているようなものだよ」
「だからといって‥」
「高虎は心配性だね。今日は調子がいいんだ。気にしなくて、いいよ」
そう言われると高虎は何も言えない。
「貴方がそう言われるのなら、私が申す事はありません」
「ありがとう、高虎」
頭を撫でて、秀長は嬉しそうに言う。
「ただし、私が側にいることをお許し頂きたい。
何かあってからでは困ります」
「まいったね‥。高虎は根回しがいい」
ふふっと笑う秀長に高虎は肩をすくめる。
「そうでも言わなければ、貴方は無理をなされる」
「見破られているね」
「当然です。私は貴方のお側にいつでもいます」
「‥そう、だったね」
少しだけ微笑み、秀長はその場に腰を下ろした。
「高虎」
「はい?」
「お前はそんな生き方でも甘んじていられるのか?」
「は?」
「私に仕えてくれるのはありがたい。
でも、それが高虎の望んだこと?」
そう尋ねられ、高虎は眉を寄せた。
「何を仰っているのか分かりかねます。
私は小一郎様に拾われてからずっと、貴方のために存在しています。
貴方と共にあることが私の生き方。
それを否定することは、
例え貴方であっても許しません」
難しい顔をする高虎に秀長が苦笑する。
「別に否定はしていないよ。嬉しいと言っているだろ?
私はお前を自慢に思っているよ」
「では‥」
「でも、それとは違うんだよ。それとは違う問題」
「‥?」
「私が死んだら、お前は何処へ行くんだ?」
「!?」
高虎はカッとなった。
「馬鹿な事を仰らないで欲しいッ!
貴方は私が守ると言った筈だッ!!何故死ぬなどと仰る?
貴方は私を信じておられないのか?」
怒鳴るように叫ぶ高虎に秀長は静かに首を振る。
「信じているよ、高虎。
でも、私はお前を束縛していやしないだろうか?」
「は?」
「私という存在がお前を絡め取ってしまう、そんな気がする」
秀長は目を伏せて、訥々と喋る。
「私はお前が望むような功名を上げられる武将じゃない。
ましてや、兄上がそうだとは私には思えないのだ」
「な、何を仰いますッ!?弟君でも許されません」
「そうだね。だけど、兄は天下を治められる器か分からないよ。
いつかは豊臣が滅んでしまうのは明白。
けど、私はそんな豊臣の為に生きるつもりだ」
「だから‥、私も貴方と‥」
「それ。‥それがダメなんだ」
「え?」
「高虎はここで一緒に行ってはいけない。
お前はもっと高見へ、‥いや、もっと天下に近い方に仕える男だ」
「小一郎様ッ!!!」
悲痛な叫び声を上げて、高虎は秀長の側に崩れ落ちた。
「私はなんと仰られても、貴方と運命を共に致しますッ!
この高虎、貴方様が誰よりも我が主君に相応しいと思っております」
「‥高虎」
「どうか‥、お暇など出さないで下さいませ。高虎をお傍においていて下さい」
必死に訴える高虎に秀長は少しだけ笑う。
「兄上が言ったのは本当だったね」
「?」
「高虎の熱に、お前はいつかやられると‥」
「は‥?」
「私とて、お前を手放したくなどない。
お前が、私の傍にいて良い、唯一の存在なのだよ‥」
「小一郎‥様」
「高虎、‥私を守ってくれ」
「はっ、仰せのままに」
秀長の伸ばした手を握ると高虎は口付けを落とした。
まるで、熱い恋煩い。
傍にいるだけでその熱にやられてしまう。
高虎の想いは、熱い熱い‥熱。
終
*高虎にとって、転機が秀長という文章で出来たCP。
高虎にとって、秀長が一番ならいいなぁなんて思います。