五助は三成のところに通されて、しばし呆気に取られた。
そして、自分の間違いに気が付いて申し訳なくなった。
「いいところに来たな、五助」
そう言って手招きされ、五助はオズオズと三成の傍に寄る。
「も、申し訳ありません‥まさか朝御飯時だったなんて」
慌てる五助に左近が笑う。
「今日は、殿が寝坊したから今頃なんですよ」
「左近っ!!余計なことをいうな」
「はいはい」
たくっ‥と三成は毒づくと五助を見た。
「良かったら、食べていけ。五助も馬を走らせてきたのだろ?」
「え‥。で、でも、申し訳ないです」
五助は懐から吉継から預かった手紙を三成に差し出しながら、首を振る。
「構わない。紀之介の部下は俺の部下と同じだ」
細かいことを気にするなと笑い、三成は手紙を受け取る。
「あ‥、はぁ‥。で、では、お言葉に甘えて」
五助は三成から少し離れると申し訳なさそうに小さくなって座る。
その目の前に左近が膳を出してくれる。
「どうぞ」
左近の笑みに五助は
「ありがとうございます」
と少しだけ笑って返す。
「左近」
「なんですか、殿?」
「ちょっと出かける」
箸を置いて、手を合わせて「ご馳走様」と言うなり三成が立ち上がる。
「大谷殿からのお呼びで?」
「そんなものだ。‥五助、お前はどうするんだ?」
「え?あ‥ご、ご一緒しますっ」
「いや、帰るだけならゆっくりしていけ。左近、後を頼む」
「分かりましたよ」
左近は頷くと、突然三成の腕を引いた。
「な、なんだっ、左近っ!!」
「ちょっと、失礼」
左近の指が三成の頬に触れる。
「ご飯をつけて何処に行く気ですかねぇ、殿は」
笑う左近の指にはご飯粒。
カッと三成が赤くなる。
「き、気が付かなかっただけだっ!!」
「そうですか」
「‥あ、ありがとう」
三成はぶっきらぼうに感謝の言葉を述べると出て行った。
「まったく、手のかかる方だ」
クッと笑い、五助を振り返って左近は眉を寄せた。
「どうしたんですか?」
なにやら呆然としている五助。
「五助殿?」
名前を呼べば、我に返ったように目をぱちくりさせて、顔を伏せてしまう。
「‥どうしたんですか、五助殿」
左近は五助に近づくと優しく尋ねてみる。
五助はもくもくと食事を口に運んで、黙っている。
その顔は何処か複雑だ。
(はは〜ん、こりゃ‥)
左近はその表情に内心、笑う。
(焼きもち‥か)
まったくもって、可愛い人だと嫉妬してくれる恋人に満足する。
「五助殿」
左近はもっと五助に近寄って、耳に唇を寄せて再度名前を呼ぶ。
「なにを怒ってるんですか?」
ビクッと五助の身体が撥ねて、びっくりしている顔が左近を見た。
頬が、ほんのりと赤く染まる。
「殿といちゃいちゃすると、やっぱり嫌ですかねぇ?」
どうです?と意地悪く尋ねると五助が益々驚いて、オロオロする。
「い、いえ‥私は別に」
どもった声が否定を口にしようとして、何度もパクパクするが声にならない。
「大丈夫ですよ。あんたとしか、こんなことはしませんから」
左近はできるだけ甘い声でそう呟き、五助の頬に触れるだけの口付けをする。
「ついてましたよ、ご飯つぶ」
可哀想なくらい五助が真っ赤になる。
もう、声も出ないし、固まっている。
「ほら、こっちにも」
と、ついてもいない逆の頬へも口付け。
「こんなにも無防備でいいのは、俺の前だけで頼みますよ?」
じゃないと、‥全部喰われちゃいますから
からかうように言うと左近は楽しげに笑った。
終
*左近は毎日、毎日五助に惚れ直していればいいなぁなんて話。
いや、今まで書いた奴でも何度か惚れ直してますけど‥。
五助はそんな左近に苛められて、ワタワタしていればいいw
左近と三成は、主従の壁を越えない程度にいちゃいちゃしていればいいです。
なんというか、左近の悪ふざけに殿が呆れつつ、たまに大いにからかわれていれば良し!
じゃないと、吉継の仕返しが怖いですし(笑)
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