「左近殿は頭がいいですね。羨ましいです」
兵法書を開いて、五助が言う。
「そうですか?別段、なんもしてませんけどね」
「いえ、そんなはずありませんよ。これは努力なさったからの結果ですよ」
「‥そうですかね」
「まぁ、もって生まれた才能っていうのもありましょうが」
五助は小さく笑う。
「五助殿にだって、生まれ持った才能がありますよ」
「え?そうでしょうか?別段、そんなに突出した才能は‥」
「忠義心」
「‥え」
左近は真面目な顔をすると五助を見る。
「大谷殿に対するその忠義心は才能じゃないんですかい?」
「あ」
左近の言葉に五助が言葉を失う。
「い、いえ‥そんなもの、誰だって持ち合わせていらっしゃいますよ」
左近殿だって‥と五助が視線を逸らす。
「そんなこと、ないですぜ」
「え?」
くっと顎を持ち上げられて、無理やり視線を合わせられる。
「世の中には忠義心を持っていても、世渡りできないから捨てる奴だって五万といる。
俺とて、筒井家を裏切りましたが」
「そ、それは理由があってっ」
「五助殿はずっと同じ殿に仕えている。‥あぁ、これも才能かもしれないですね」
「や、止めてくださいっ!!」
五助を見れば、頬が赤くなっている。
「あ、あまり褒められると恥ずかしいです‥。
なんの取り柄もないと思っているので余計に‥」
視線がうろうろと彷徨っている。
”可愛い”
左近は小さく笑うと触れる程度に唇を重ねると、五助が驚く。
「まぁ、俺には大したことはできませんけど、
羨ましいならこの才能を教えることは出来ますぜ」
「‥‥ぁ」
「兵法だってなんだって。‥そう、こういうこともね」
再度、唇を重ねる。
今度はさっきよりも深く‥。
「だから、なんなりと言ってくださいね、五助殿」
「‥!?」
無駄な色気を出した左近に当然五助は太刀打ちできず‥。
「あ‥ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
と掻き消えそうなほど小さな声で呟いた。
「ははっ‥そりゃ、嫁に来た人が言う台詞では?ま、いいですけどね」
この可愛さもある意味才能か?
左近は内心笑った。
終
*左近は色気があるという意見から出来たお話。
その後なおまけがあります。