「おぉ、これは素晴らしい!」
隣で大はしゃぎする兼続に
「あぁ」
とだけ呟いて、景勝はため息をついた。
今は京にやってきて、町を散策しているところだ。
こうやって兼続と二人きりで歩くのは景勝にとっては嬉しいことだ。
だが‥。
「兼続ッ!こっちにも変なのあるぜ」
「直江殿、この書物も面白そうですよ」
景勝にとって余計なのが二人いる。
「慶次、幸村!早すぎるぞッ」
こうやって兼続が嬉しそうにしているのは景勝としても嬉しい。
兼続は若いのだから、友人が多いに越したことはないし
こうしている兼続をみるのは嬉しい。
それは一種、兄が弟を見るような感覚もある。
だが、何処かでそれだけでは満足できない自分がいることも否定は出来ない。
「景勝様、行きましょう!」
グッと手を引かれる。
景勝は一瞬驚いたが、されるがままになる。
こうやって、手をつながれるだけで嬉しいなんて現金だなと思いながら。
***
それでも不満はある。
兼続は多い交友関係に手一杯で、景勝と過ごすのは朝夕晩の飯時だけ。
下手すると晩と朝は三成と話しこんでいたせいで一緒に食べれないこともある。
最初のうちは景勝だって我慢した。
自分は主君だし、兄であるし、第一我侭を言うような歳じゃない。
兼続が誰といようと口を挟まないし、どんなに遅くなろうが気にしないでやった。
大切な部下であり、弟のような存在で、何者にも代え難い好きな人だったからだ。
でも、それも最初だけ。
だんだんと不満が募って、常時無口な景勝が一層喋らなくなった。
自分も話し相手を探せばいいのだが、幼い頃から謙信公の傍で育ち、
兼続を友にしてきた景勝の社交がうまいとはお世辞にも言えない。
だから、当然部屋にこもることになる。
書物を読んだり、他の部下と囲碁をしたり。
たまには外へ出たが、一人ではあまり楽しくない。
「今夜はそれほど遅くならず帰ります」
兼続は朝御飯を食べ終わると笑顔でそう告げた。
コクンッと景勝は頷く。
今の景勝は僅かな理性だけが、兼続を邪魔しないという思いとなっている。
「お土産を買ってきます。三成がうまい団子屋を教えてくれまして、
慶次も気に入っているのですが‥これが本当に美味でッ」
楽しそうに話す兼続に僅かに笑みを見せて、景勝は立ち上がる。
「遅れるぞ」
「あ、そうですな」
景勝の呟きにいそいそと兼続は膳を寄せて、出て行く。
その後姿を眺めながら、景勝はため息をついた。
***
不満はたまる。
今夜も兼続は帰ってこないようだ。
何を心配する必要があるのだろう?
兼続が帰ってこないだけで、こんなにも己がモヤモヤしているなど‥。
景勝はフルフルと頭を振った。
景勝は温泉に浸かりながら、空を見上げる。
星が綺麗だ。
つまらない日々だが、この瞬間が結構好きだった。
星をぼぉっと見るだけ。
暖かい湯の中でそれを眺めるだけで気分が幾分だが癒される。
ポチャンッと水音が響いた。
フッと視線を向ければ、驚き顔の兼続と目が会う。
「か、景勝様?」
「よ、与六?」
「こんな遅くにお一人で。危険です」
少しだけ慌てる兼続に景勝はビクッとし、距離をとる。
隅っこまで身体を運び、目を背ける。
なんだか‥考えていただけに気まずい。
「景勝様、聞いていらっしゃるのか?」
兼続が話すのをやめて、景勝を見る。
耳に入ってくる声さえ、今はなんだか恥ずかしくなる要因で
景勝は必死に意識から兼続を追いやる。
ゆらゆらと湯に揺れる己の長い髪を見つめたまま、黙り込む。
「景勝、様?」
兼続はやっと不審に思ったのか、景勝の傍に近づいていく。
その動きにつれて迫る水音に景勝はビクビクした。
「いかがされました?」
尋ねられた声が近すぎる。
景勝は真っ白になる頭で叫んだ。
「遅いッ、遅すぎるぞ、与六!‥義父上が心配なさっておいでだった。
俺は一人で入りたいのだ、出て行けッ」
こんな言い方、しなくてもよかった。
景勝は叫んで、すぐに黙ってしまった。
兼続がしばらく探るような目で景勝を見ていて、口を開いた。
「何を、怒っておいでですか」
「!?」
景勝は思わず兼続の顔を見た。
「お、怒ってなどいない」
「そうでしょうか?景勝様は表情が読みにくいが、
この兼続に見抜けない表情などありましょうか?」
「っ」
そこまで言われたら何もいえない。
「何を怒っていらっしゃるのです?」
「‥なぜ」
「?」
「何故、そのように読めるのなら俺が寂しいことに
気が付いてはくれなかったのだ、与六?」
思わずこぼれた言葉。
ハッと口を塞いだときは遅すぎる。
兼続の表情が驚愕へと変わる。
「い、今のは‥ちがっ」
慌てて、訂正を試みても間に合わない。
止めないって決めたのに。
自分が情けなくて、景勝は顔を伏せた。
「景勝様」
兼続の声が降ってくる。
「気が付かず、申し訳ありませんでした」
違うっ!
景勝はバッと顔を上げる。
「よ、与六を責めたい訳ではないのだ!
俺は口下手だから、本当に言いたかった意味とは違う意味になった。
聞かなかったことにしてくれ。お前は、」
”お前は悪くない”
それは言葉にならず、涙となって湯に落ちた。
後はもう言葉にならない。
泣き出した景勝の涙をぬぐって、兼続は優しく尋ねる。
「どうか、そのように我慢せず言ってください。
気が付くべきは私だが、貴方の口から言ってくれなければ分からないこともある」
「そうじゃ‥ないっ‥違う」
「申し訳ありません、景勝様」
兼続は再度謝り、景勝の額に口付けた。
久しぶりだったせいか、その行為に景勝は身体が粟立ったのを感じた。
「ぁ」
思わず小さく声が漏れた。
それを聞いて、兼続の表情がいつもの無邪気な笑顔とは
まったく逆の
少しだけ意地悪な笑みになる。
「景勝様」
「やっ!?」
再度いきなり口付けられて、景勝はビクリとする。
「こうして、欲しかったのですか?」
「〜〜〜‥っ」
顔が真っ赤になる。
「さぞ、我慢させたことでしょうね。‥違いますか?」
欲情を孕んだ兼続の瞳に魅入られて、景勝はこくんっと頷く。
「責任は、‥ちゃんと取ります」
景勝は兼続の手に身を任せた。
***
「与六」
兼続に抱えられながら、景勝は呟く。
「なんでしょうか?」
コトを終え着替えると、兼続は誰も見ていないからと景勝を抱えてくれた。
そのまま部屋に連れて行ってくれるというので、景勝がその言葉に甘えた。
その腕の中、景勝はとろんっとしながら話す。
「もう、我侭は言わない。‥俺に構わなくても、いいから」
景勝の言葉に兼続が小さく笑う。
「あれだけされても、まだそういう風に言いますか?」
「?」
「この兼続が景勝様をかまわないで、本当に満足していたと思っておいでで?」
「!」
カッと景勝の頬が赤くなる。
「私とて、景勝様と共にいたいと思うときもある。
貴方が他の部下と鷹狩りに行ったときは、いっそ自分も追いかけようと思ったほど。
でも、貴方は私を引き止めてはくれない。
だから‥つまりはそう、意地悪いたしました」
「なっ!?そ、それは不義ではないかッ!!」
「結果、景勝様は私を求めてくださったのだから終わりよければすべて良しですが」
意地悪く笑う兼続に景勝は不満そうな顔をする。
「お前がそのような不義を働くとはっ!義父上に言いつけるぞ」
「なんとでも。‥景勝様が寂しかったことも話す必要があるのでは?」
「〜〜〜‥っ!!」
「まだ、宵は長い。まだこの私にやられるだけの体力はおありですか?」
景勝の頬に口付けながら尋ねられて、
「いつからそんなに意地悪くなったんだ‥っ」
と景勝の口から不満がもれた。
終
*えっと、久しぶりに無双兼続×景勝を書いてみました!
兼続ってしゃべり方、本当難しいですよね。
どうしていいのかワタワタしました。
というか、年齢制限にしたかったつもりがおいしい所すっ飛ばしですね?
私には無理なんです、いろいろと‥(汗)
なんて駄目なやつ‥。
景勝と兼続の性格が全然違うというのは勘弁してやってください。
自分で分かっています‥(汗)
でも、どうしても書きたかったんですよね。
エンパやったせいです。
エンパの景勝様も可愛かったv
大好きですv
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