『戦う理由』


「兼続の為、ここは引けぬ」

そう私の主が叫んだ瞬間‥‥。
私はなんて愚かな事をしてしまったのだと、 内心僅かに胸を痛めた。

***

「助かったぞ、兼続」

少し幼さを残した顔が微笑んで、私を見上げてくる。

「いいえ、景勝様が頑張って下さったお陰でこうして江戸城を手に入れられました」
「何を言うか‥。これ全て、兼続の策略のたまもの。俺は何もしておらん」
「‥景勝様」
「しかし、義父上様もまさかこのような事になろうとは思っておらんだろうな。
きっとあの世で驚いていらっしゃる」

そう言うと景勝様は、おかしそうにクスクス笑った。

「兼続、お前の願い‥成就まで後少しだな」
「‥はい」

‥あぁ、そんな顔を向けないで欲しい。
私は貴方を、上杉謙信様のご子息をお守りすると心に誓い、結局は破ったのだ。
それどころか、危険ともとれる場所につれてきて、その上生命を危機にさらした。
許される事じゃないし、謙信様が生きていらっしゃったら怒っただろう。

「どうした?兼続。顔色が悪い。具合が悪いか?」
「いえ、そんなことは‥」

三成の為、幸村の為‥義を重んじた筈だった。
だが、それがなんだという?
義は守られても、景勝様を見てみろ。
何の不満も感じず、ただ私の側で私の願いに付き合って下さった。
どれ程大変だったろうか?
思うだけで、辛い。

「景勝様」
「なんだ?」
「‥申し訳ありません」
「何を、謝っているのだ?兼続」

キョトンとして、見つめられる。
昔、まだ”与六”などと幼名で呼ばれていた時、
この方について行こうと思ったその時からこの人は変わらない。
素直で、疑うことを知らない、何処か無垢なそれ。
だから、私はこの方を好きだと思った。
なのに、それを告げた事はあっただろうか?
何時だって、三成や幸村の後でこの方は私をどんな風に見ていたのだ?
そんな風に思えば、なんと薄い関係だったろうか?

「いえ、景勝様は私などと一緒で嫌ではないのかと‥」
「え?」
「迷惑、ではないのですか?」

その言葉に景勝様は見る見るうちに怒ったような顔になった。

「馬鹿を言うなッ!!何時俺がそのように言った?
兼続は俺の自慢の家臣だ。迷惑など思うはずもないッ」
「ですが、私は景勝様に何も‥」
「いらぬッ!!兼続の好きなことを、好きなようにやればいい!!
俺はついて行くだけだ。それとも、お前は俺が足手まといか?」
「いえ、そんな事は‥」
「兼続ッ、本当のことを言え!!どうなのだ」
どうして、‥どうして貴方は私を恨まないのだろう?
責めてくれたらどんなに気が楽だろうか?
「景勝様」
「か‥ねつぐ?」

抱きしめれば、その身体は初めて抱きしめた時と変わらず小さくて温かい。

「この兼続を叱って下されば良かったのに。
三成や幸村ではなく、俺のことを見ろと叱って下されば‥。
私は貴方を好きなのに、好きとも告げずこんな事をしている。
後は家康を倒すだけ。
でも、それは果たして景勝様にとっていいことか?
望んでいる事でしょうか?」

その問いに景勝様は抱きかえすことで答えて下さった。

「いい。兼続の思うとおりにしろ。俺は従う。
景勝が俺を好きとは言わなくても、大切に思われていると知っている。
ではなければ、救ったりしないだろう?」
「景勝様?」
「覚えて‥いないのか?
お前が初めて一緒に戦に出た時、苦戦した俺を救ってくれた。
あの時から、俺はお前の力になりたいと思った。
なぁ、いいだろ?邪魔なら捨てていってくれてかまわない。
だが、手伝うことを許せ。俺もお前が好きだから」

それはどんな一言より確かなもの。
一層強く抱き締めて、

「‥景勝様、私も貴方が好きです」

と告げた。
景勝様はくすぐったそうに笑って、身を捩った。

「改めて言われると恥ずかしいな、与六」

そんな風に悪戯っぽく言われる姿さえ今は何よりも愛おしい。
今、何のために戦っている?と問われたなら言おう。
”景勝様の天下の為”と。

「この天下、景勝様に捧げます」

そう耳元で言えば

「それは楽しみだ」

と笑われた。
天下まで後少し。
今度の戦い、全ては大切な殿の為に。

「景勝様、今しばし私の無理強いに協力してください」
「うむ、分かっている。
聞かれるまでもなく、俺はお前の味方だぞ、与六」




「この戦、我が殿、景勝様に捧げる義戦だッ。
物共、そのつもりで我に従えっ」

その下知に、景勝様が苦笑されたのは言うまでもない。

*友人の触発されて前々から大好きだった上杉子世代主従です。
 無双の兼続がものすごく好きなのに、景勝とあまり喋らないので脳内補完してみました(苦笑)
 喋り方がうそ臭くてすみません‥。無双キャラは喋り方が難しいですね。
 可愛い殿がいつか無双キャラになるのを夢見てますv

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