※現代パラレルです。
昼休み。
長政はいつもどおり屋上で昼ご飯を食べている。
そこに基次の親友であり、彼が所属している剣道部の先輩である太兵衛が現れた。
「あれ、一人?」
「そうだが。俺が誰かといたことあるか?」
先輩だが、昔からの顔馴染みなので長政も遠慮がない口を利く。
「え、だっていつもは基次と一緒だろ?」
「‥いつもじゃない」
太兵衛の言葉に訂正を入れて、隣を開ける。
太兵衛はそこに座りながら、
「あのさ、長政は基次と付き合っているんだろ?」
と呟くように尋ねてきた。
その言葉に長政が咳き込む。
「な、何を言ってるんだッ」
「え、違うの?」
「当たり前だッ!なんでそういうことになる?」
「見たやつがいるんだって。基次と長政が手を繋いで帰っていたことがあるって」
カッと長政の顔が赤くなる。
「ば、馬鹿な!そんなことあるかッ」
確かに小学生辺りはそんな風に帰ったこともあるが、今やもう高校生だ。
そんなのはありえない。
「そっか‥そうなんだ」
太兵衛は一人で納得したように頷く。
「そうだよな!昔から基次の友達やってる俺が、
長政と基次が付き合っているのに気が付かない訳ねぇもんな。
第一、長政は奥手だから告白しっこねぇーもん」
その言葉に思わず太兵衛を叩く。
「なッ!?何するんだよ?」
「そんなこと、ここで言うな、馬鹿ッ!」
悔しいが太兵衛の言葉は本当なので否定は出来ない。
基次が好きだ。
でも、告白できないのは奥手なんじゃない。
「男同士が付き合うなんてそんな馬鹿なことあるか」
呟くようにいって、長政は自分でダメージを受けていた。
”そうだ‥男同士だから諦めたんだ。
基次がどんなに好きでも、あいつはそんなの望んじゃいないから”
「じゃあさ、基次に女の子紹介してもいい?」
「は?」
いきなり言われた言葉に長政は訳が分からないという顔をしてみせる。
「え‥だから‥」
「違う!聞こえている。なんでこの話でその流れだ?」
太兵衛はたまに一人で納得し、勝手に話を進めるところがあり、
ついていけないことも多々ある。
「実はさ、クラスメートに頼まれたんだ」
「基次に紹介してくれと?」
「というか、その女の子がさ、基次のこと好きなんだって」
一瞬、長政の頭の中が真っ白になった。
「基次のことが、好き?」
「そ」
太兵衛は頷いて、少しだけ複雑な顔をする。
「やっぱ、やめとこうか?断っておく?」
「な、なんで俺に聞く?基次に直接言ってやればいいだろ?
‥付き合うか決めるのは俺じゃない、基次だ」
長政は顔を背けて、吐き捨てるように言う。
太兵衛はまだ心配そうな顔をしていたが
「まぁ‥そう言うなら」
と呟き、立ち上がり、
「俺、基次探してくる」
一言長政に残して、その場を去っていった。
残された長政は進まなくなった箸をおいて、俯く。
「男だから、‥駄目なんだ。‥好きでも」
諦めたような呟きが漏れた。
***
放課後。
長政は複雑な顔をしていた。
「なんで‥こういう日に限って雨が降るんだ」
自分の気持ちが反映したような土砂降りに長政は自己嫌悪に陥った。
”あぁ〜なれないことにウジウジしたりするからッ!”
怒鳴り散らしたいが、そこは長政。
学校では優等生で通っているのだから、自重する。
”とにかく早く帰って‥”
鞄に手を入れて、固まる。
”ない?‥そんな筈ない!入れたのに?”
傘がない。
再度落ち込んで、長政はため息をつく。
「ついてないな、今日は」
”厄日だ、厄日。太兵衛のせいだ”
そんな風に密かに思って、壁に寄りかかる。
”基次はどうしただろ?”
あいつは傘を持っていたのだろうか?
フッと思って、頭を振った。
”持ってなくても、あいつには彼女ができたんだっけか”
結構あっさり出した答えに長政は薄ら寒いものを感じた。
同じ家に住んでいる基次が彼女を連れてきても、
自分はそんな風にあっさり思えてしまうのだろうか?
”まだ、付き合っている訳じゃないだろ‥”
自分の答えに否定を入れる。
”けど、付き合ったら?”
どうなるんだ?
どうするんだ?
長政はそう考えながら、雨を見つめる。
止みそうにない。
「なにやってるんだ?」
突然背後から肩を叩かれて、長政は驚く。
「な、なんだッ、いきなり!?」
「‥こっちの台詞だ。なにを驚いている?」
「も、基次?」
「そうだが?‥変だぞ、お前」
カッと長政の顔が赤くなる。
「お、お前なんでこんなところに?」
「帰るところだ。お前こそ、なんでここにいる?」
「お、俺は傘を‥って、そんなのはどうでもいい!
お前、‥彼女は?」
「は?」
基次が長政の一言に訳が分からないという風な顔をする。
「彼女?」
「そ、そうだ!彼女はどうした?後から来るのか?」
基次は長政の顔をジロジロ見てから、半ば苦笑するように
「生まれてこの方、長政の傍にいて俺に彼女がいたことがあるか?」
と尋ねた。
長政の目が丸くなる。
「だ、だって‥太兵衛が‥」
「太兵衛がなんだって?言っておくが、俺は彼女なんていない」
長政は訳が分からなくて、頭の中がパニック状態だ。
そんな長政を見て、基次が小さく笑う。
「彼女なんて、当分できないし、
できても構ってやらないから振られるのがオチだ」
「そ、そんなことはないだろ!お前は、‥優しいから」
「‥俺がいなくても、長政はやっていけるのか?」
「!」
基次が優しく微笑む。
「こんな風に傘がなくて困っているお前を素通りして、
彼女と帰る俺なんて‥想像できないが」
「も、基次?」
「ほら、帰るぞ、長政」
傘を開くと基次が長政に手を差し出す。
「ば、馬鹿ッ!手なんか繋ぐかッ」
「子供の頃は繋いだだろ?」
「子供のときだろ?‥付き合っているなんて、思われたらどうする‥」
長政の頬が赤く染まる。
「誰と誰が?」
「俺と‥お前」
掠れた様な答えに基次が笑う。
「構わないだろ、別に。いわせたいやつには、言わせておけ」
「き、気にしないのか?」
「気にするわけないだろ?‥それとも、本当に付き合ったほうがいいか?」
冗談みたいに言うが、基次の声は何処か真剣で長政は反応に困った。
うろたえていると基次は苦笑して、長政の頭を撫でた。
「なんて‥言ってみただけだ。本気にするな。
帰るぞ、‥幸円さんが待っている」
「あ、あぁ」
ギュッと握られた手。
長政は少し気恥ずかしいが、振り払わない。
今は、傍にいられるのが嬉しいからだ。
”隣にいても、いいんだな?”
言葉に出さないが、尋ねてみる。
基次の横顔を見れば、少しだけ笑っているから構わないのだろ。
そう思うことにした。
久しぶりに雨の中、長政は基次と手を繋いで帰った。
終
*神からの御掲示なのか、それともただの気まぐれか‥。
今回こそは本当に両思い!
現代パラレルはちょっと前々から長いのをやってみたかったので、できて嬉しいです。
うちの又兵衛とは思えないような感じですが‥(笑)
又兵衛が長政を好きだとなにやら、私が恥ずかしいです‥(汗)
長政がそれに気が付かないのも歯がゆいし(笑)
基次表記にすると誰だか分かりづらくなんだか申し訳ないです。
でも、この方がより現代に近いかと思って。
太兵衛は下が分からなかったので泣く泣くこっちで。
また両思いを書けたらいいなぁ‥なんて思ってます。
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