『赤い紐』


赤い糸なんて信じていない。
誰だかが言い始めた迷信だ。
繋がっていることで、愛し合えるなんてそんな都合のいいことあるわけない。
そう思っていた。


手の中の赤い紐。
それを見つめて、長政は思わず赤くなった。
なんの変哲もない紐は、幸円が長政の髪を結ぶのにくれたもの。
赤と言うより、紅に近い色をしている。
その紐が、赤い糸の言葉を連想させるのだ。
長政はハッとなり、フルフルと首を横に振る。

「信じていないぞ、俺はっ」

声に出してまで宣言するが、むなしい。
本当は、思い切り期待だけしている。
自分の赤い糸があの人と繋がっていないことは明白だ。
それでも、‥。
期待ぐらいしても罰は当たらないと思うから‥。
無意識に手に紐を絡める。

「この先に‥」

あの人が‥

「何をしているんだ、吉兵衛」

突然呼ばれ、ビクッと長政は驚く。

「い、いきなり声をかけるなっ!!」

振り返って怒鳴る。

「では、どう声をかければいい?」

理解できないと又兵衛が半ば呆れ顔で尋ねてくる。

「自分で考えろっ」


―――胸が、どきどき


「ん?新しい髪紐か?」

めざとい又兵衛は長政の手の中のものを見付ける。

「は、母上がくれたのだ」
「そうか‥、幸円殿が」

フッと又兵衛が一瞬優しい顔をする。

「付けないのか?」
「え?」


―――鼓動が煩い。


「い、今付けようとしていたのにお前が邪魔したのだろッ」

半ばやけ。
又兵衛が一瞬驚くが苦笑する。

「俺のせいか」

クッと可笑しそうに笑う。
どうやら、珍しく機嫌がいいようだ。
思わず長政は惚けてしまった。

「どうした、吉兵衛?俺の顔に何かあるのか?」
「!?」


―――顔が熱い。


「何もないッ!!なんでもないッ!!あっちへ行けッ!!」


―――既にもう、心臓は破裂しそうで‥


「怒るなよ。‥機嫌を損ねた詫びに結んでやる」


―――そんなに触れないで、‥そんなに優しくしないで。


「お前の髪は昔から変わらないな」

スルッと結んでいた紐を取って、慣れた手つきで赤い紐でゆわいていく。

「あんまり触るなっ」
「触らないで結べる訳ないだろ?」

それはそうなのだが‥。


―――どうかなってしまいそうなんだ、俺自身が。


「ほら、出来たぞ」

ポンッと肩を叩かれ、ハッと長政は顔を上げる。

「どうした?赤い顔して」

又兵衛が不思議そうに長政を見る。

「なんでもない」

半ば放心状態で、長政はフラフラしている。

「変な奴だな」

フッと又兵衛は笑って、出ていった。


―――まだ‥、この鼓動がおさまらない。


「赤い、糸‥」

口に出して長政はますます赤くなる。

「又兵衛」

髪に結ばれた紐をなぞり、小さく呟く。

―――あの人とこの小指の先が繋がっていたなら‥



*又←長でちょっと甘めのお話。
 まぁ、一方的に長政が‥ですが。
 それでもいろんなCPで書きたいと思っては捨てていた、
 赤い糸話が書けて良かったv
 最近の長政は乙女だと思います。
 それもこれも、息子と違いを出すためですかね?
 でも、これくらい乙女なのが長政なのかもしれない‥(え)
 又兵衛の事に一喜一憂する長政が堪らなく好きです。
 最近又←長を書くときは長政贔屓な私。

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