『御する』


「なんで俺の命令を無視したっ!!」

怒鳴るが、当の本人は視線を逸らしたまま黙っている。

「聞いているのか、又兵衛っ!!」

その態度に益々腹立ち、長政が詰め寄る。
冷めた瞳が一瞬だけ長政を映し、唇が弧を描く。

「‥なんだ?何が言いたいっ」
「いいや、別に」

なんでもないですよと丁寧なのに、馬鹿にしたような呟きが返ってくる。

「言いたい事があるなら言えっ!!お前のそういう態度が嫌いだ」

ガッと胸倉を掴むが、又兵衛は視線を合わせない。

「なら、相手にしなけりゃいいでしょ?」
「なっ!?」

何処までも長政を馬鹿にした態度。

「貴様っ、誰が主か分かっているのか!!」

怒鳴った言葉に又兵衛が笑う。

「まさか、自分が主だとか言うんじゃないでしょうね?
俺は一度も、長政様を主だとは思っていませんが」

告げられた言葉に長政が唖然とする。

「あぁ‥、少し言い方が酷でしたかね?失礼いたしました」

少しも謝罪など含まれていない言葉。

「俺は貴様を右腕にしたいと望んで、父上に頼み戻ってきてもらったのだぞ!
父上も俺ならば、貴様を御せると思ったから‥」

そこまで怒鳴ると又兵衛が楽しそうに唇だけで笑うと長政に迫った。

「な、なんだ?」

壁際まで追い詰められて、長政は困惑する。

「誰が、誰を御するんです?」
「え?」
「まさか、‥長政様が俺を?‥冗談」

人を小ばかにしたような笑み。

「貴方に俺は御せませんよ」

御せられる気もないと又兵衛は首を振る。

「だ、黙れっ!!そう言っていられるのも今のうちだ。
そのうち、俺の実力を思い知るぞ」
「どの程度、何を出来るって言うんです?」

又兵衛の顔が近くなる。
カッと長政の頬が朱に染まり、身体が硬直してしまう。

「こうやって俺に見られているだけで、こんなにも無抵抗な長政様が?」

スッと頬を撫でられ、長政は目をつぶる。
ビクッと身体が強張る。

「こんな風に、好き勝手にされてしまうのに俺を御する?」

又兵衛の唇が首筋へと寄せられる。

「っ」

カリッと軽く噛まれ、小さな悲鳴が漏れる。

「貴方が俺に御せられているんでしょ?」

クッと又兵衛が可笑しそうに笑う。
ズルズルと長政の身体が崩れ落ちていく。

「今のだけで、そんな状態じゃ何時まで経っても駄目なままですよ」

笑いながら見下してくる又兵衛を長政はもう睨み返せない。
身体中が熱を持っていて、鼓動が早い。

見下されて、馬鹿にされているのに‥

又兵衛の傲慢な視線を肌に感じながら、長政は想う。

こんなにも、好きだなんて‥と。




*前のHPにあったものです。
 近衛氏の鬼畜な又兵衛が堪らなくよかったので、そんな感じで書いてみました。
 近衛氏の又兵衛は幼い頃からの知り合いじゃないので、
 「年下の分際で」ってな感じの見下しがあって、その設定がなんだか新鮮でした。
 で、馬鹿にしていたりするくせに身代わりになっってちゃんと守ったりするのがずるいです。
 残念ながら決別まで話はいかないのですが‥。
 そこら辺妄想すると止まりません(汗)
 ちなみに不要な説明ですが、御するの意味はこの場合 「他人を自分の思うとおりに動かして使う」です。
 私としては制御するって意味とかけたつもりなのですが‥。
 普通に辞書引くと「馬をたくみにあつかう」なんですね。
 ある辞書だと「馬などを」って書いてあったけど。
 馬などを?(汗)

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