『仕返し』


「暑い」

長政は怒ったように文句を言う。

「そうは言っても、夏だから仕方有るまい」

それにさらっと返し、又兵衛は長政にパンを渡した。

「このくそ暑いのに、なんでお前と昼飯を食べなきゃいけないんだッ」
「仕方ないだろ?お前が金を忘れたのだから」

又兵衛は苦笑し、長政の側に座る。

「あぁ〜‥近寄るな!暑いっ」

シッシッと手を振って、長政はパンの包みを開く。

「お前が髪なんぞ伸ばしているからいけないのだろう?」

又兵衛は嫌みを込めて、そう言い缶ジュースを開ける。

「う、五月蠅いッ。これは切れないんだ‥」
「なんでだ?」
「な、内緒だ!」

少し赤くなって長政はそっぽを向く。

「それなら、もっと上で結んだらどうだ?」
「は?」
「そんなに下だから暑いんだ。首にかからねば暑くなかろう?」

又兵衛の言葉は正論だ。
長政は渋々承知した。
すると又兵衛は持っていた缶を長政に渡し、その背後に回った。

「持たせておくと飲んでしまうぞ」

長政は又兵衛に髪を下ろされながら、皮肉気味に言う。

「構わない」

しかし、又兵衛は気にすることなく淡々と長政の髪を結っていく。

「面白みのない男だ」

文句を言うように呟いて、長政は缶の中身を飲む。

「よし、これでいい」

ぽんっと肩を叩かれ、長政は又兵衛を見上げる。

「少しは違うだろ?」
「あぁ、まぁ」

気分だけ。
そう言い、長政は又兵衛に缶を振ってみせる。

「飲んだ」

缶から水の音はしない。
又兵衛は顔を引きつらせる。

「俺は一口も飲んでないんだぞ、長政」
「俺は飲むと言った筈だぞ」

しばし無言の攻防。
先に声を出したのは又兵衛で、彼は溜め息をつき

「たくっ‥、お前と言う奴は」

と毒づく。

「フン、これくらいされて当然だろ?」

勝ち誇ったように長政は笑う。
次の瞬間、なま暖かいものが長政の項を滑った。
又兵衛が長政の項に軽くキスし、舐めたからだ。

「うわぁ!?」

バッと振り返れば、又兵衛が勝ち誇ったように微笑している。

「お返しだ」
「っ!」

長政は真っ赤になって口をパクパクさせている。

「これくらいされて、当然だろ?」

そんな長政を見つめ、又兵衛は先ほど長政の言った言葉を繰り返した。



*前回のHPで拍手のお礼にしていた学園ものパラレルです。
 いちお設定としては、二人は兄弟同様一緒に育てられた義兄弟。
 学校だと先輩、後輩‥という関係です。
 結構学園もの楽しかったので、またこの設定で書きたいなぁと思っています。

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