誰でも武家に生まれれば思うことだ。
――――――自分が天下をとってやる。
それは大名家に生まれなくても、この戦国の世なら思う筈だ。
もちろん、それは例外なく俺にも言えることだった。
大名としての器があるとは言わない。
それでも、もっと俺ならやれると思うこともある。
俺がいる場所は違うと思うことがある。
「又兵衛ってさ、頭もいいし、武力もあるよね」
「何が言いたいんだ?」
太兵衛の言葉に思わず目を丸くする。
「つまりは、そんなに良いのになんで黒田なのかと思って」
「‥如水様に拾って頂いたからだろ?」
「そういうんじゃなくてさ。
もし、黒田じゃなかったら
又兵衛はもっと偉くなっていたなって思って」
「!?」
言われてハッとした。
それはずっと俺がどこかで思っていた事だったからだ。
自分がもし、ここではない場所にいたなら‥
例えば、信長の側近、秀吉の重臣‥等。
その場にいたら出来たであろう働きは予想できる。
今ならもう一国一城かもしれない。
「そう‥、かもな」
俺は小さく呟いた。
それでも俺がここを去れない理由があるとしたら、たった一つ。
如水様への恩義?俺が忠臣だから?
いや、違う。
どれもそんな気がするがそうじゃない。
じゃあ、俺が臆病者だからか?
いや‥、そうじゃない。
俺が去れないのは、長政がいるからだ。
なんで、大嫌いなあの男なのだと尋ねられても困る。
俺だって、分からない。
ただ、あの男だけは何故か裏切れない。
どんなに蔑まれても、避けられても、必要とされなくても。
それは幼い長政が俺に言った一言にあるから。
「又兵衛、ずっと側にいてね」
なんてことない一言。
子供の戯言。
それなのに、俺はその一言が破れないでいる。
あいつはもう、忘れてしまったかもしれないが。
「なんだ、俺の顔をジッと見たりして」
不気味だと長政が俺を睨む。
「いや、太兵衛が言っていたことを思い出しただけだ」
「太兵衛?」
「あぁ」
「何を言ったんだ?」
さほど興味はないという風に顔を逸らし、尋ねるてくる。
「長政に下克上したら‥、てな」
これは半ば冗談であり、からかい。
案の定、長政は俺の顔を見て、真っ青になった。
「なんで、太兵衛がそんなことッ」
「さぁな。俺なら、もっといい領主になれるそうだ」
たまに、無性に長政が苛めたくなる。
幼い頃の誓いなんて、この長政は覚えていないだろう。
だから、焦らせてみたくなる。
こういえば、長政は必ず慌てるから。
「だ、駄目だッ!!馬鹿をいうなッ。き、貴様など俺が斬ってやる」
何がいいたいのか、支離滅裂な言葉。
こんな長政だから、まだここを離れたくない。
「嘘だ、冗談だ、吉兵衛」
その瞳が大きく見開き、頬が赤く染まっていくのを見ているとしよう。
まだ、今はこの状況で満足している。
例え、どんなに長政とそりが合わなくなっても。
俺はきっとこいつに反乱だけは起こさないだろう。
「お前を裏切って、死なすなんて事、俺はしない」
そう、例えお前の元を去ってもお前を死には追いやらないさ、吉兵衛。
終
*今回は又兵衛が長政からなんであんなに長い間仕え、
そして自分で一国一城とならなかったのか?からネタ出しました。
それと、長政側の視点が多かったので又兵衛の視点にしたかったのもあります。
なんだ、かんだで又兵衛は長政が可愛いから離れられないのならいいなぁって話(苦笑)
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