「今日がなんの日か分かるか?」
偉そうに尋ねてくる長政に又兵衛は小さくため息をつく。
「なんだ?」
その態度に長政がむっとする。
「いや、別に。‥お前の誕生日はもっと先だと思うが?」
「誰が誕生日だなどと言った!」
「違うのか?‥やたらと楽しそうだったから、そうなのかと思った」
「‥楽しそうに見えるのか?」
長政は少しだけ困惑している。
「あぁ、‥見える。で、なんの日だ?」
如水様や幸円様の誕生日でもないなぁと
考えている又兵衛に
長政が呟くように
「七夕だ」
と答える。
「七夕?」
「どうせ、無学な貴様には分からないだろうが中国からきたものだ」
「それくらい知っている。‥そうか、もうそんな月か」
すっかり忘れていたとぼんやり思う又兵衛に長政が真っ赤になって、怒鳴る。
「知っているなら、さっさと答えろ!!」
「何を怒っている?」
「うるさいっ!!聞いて損をしたっ!!」
そう怒鳴って去っていこうとする長政を又兵衛は引きとめる。
「離せっ」
「なんで、怒る?俺が知っていては駄目だったのか?」
「ち、違うっ!!そういうのじゃ」
赤い顔で怒っているのに、何処かオロオロしている長政に又兵衛はふっと考える。
七夕。
確か、願い事を書いた紙を笹の葉にくくりつけるものなはず。
吉兵衛はそれが楽しみだったのだろうか?
子供っぽいと笑われると思っているのか?
だが、覚えてないだろうが松寿のときもやっていたことだ。
今更、笑うなんて餓鬼じみたことをやろうとは思わない。
ならば‥。
「ものは知っているが、どういう由来なのかは知らない」
「は?」
又兵衛の言葉にぴたっと長政の抵抗が止む。
どうやら長政の教えたいことだったらしい。
それなら、そうといえばいいのに。
素直じゃないと内心思う。
「そ、そうか‥知らないのか。なら、教えてやる」
取り乱したことを少し恥ずかしく思ったのか長政は大人しく頷いた。
「七夕というのは、織姫と彦星の話だ。
二人は恋人で、年に一度だけ会える。それが今日だ」
「そうか。‥恋人同士が会う日なんだな」
長政の話に何気なく相槌をうっただけなのだが、
なにやらまた長政が真っ赤になった。
「べ、別に恋人同士が会うからそういう日ってわけじゃないぞっ」
そういってオタオタする長政に又兵衛が笑う。
「そりゃ、そうだろ。
そういう日なら、何を好き好んで長政様とだけ会ったりする?
ちゃんと分かっている」
「っ!?」
長政がなにやら表情を強張らせる。
「それより、今年はしないのか?願い事を松寿様のときはよくしたものだが」
「‥又兵衛」
「?」
「今年の願いは”早く又兵衛が俺の目の前から失せますように”で十分だ」
「は?」
先ほどとは打って変わって、ものすごく不機嫌そうな顔に又兵衛は困惑した。
「何故、怒る?」
「貴様は本当に雰囲気とか、情緒とかの言葉から縁遠いな」
又兵衛を睨みつけて、長政は踵を返し去っていった。
「‥なんなんだ、一体?」
残された又兵衛は長政の言動と行動の理解に苦しむのだった。
終
*拍手お礼としておいていたものです。
表の如水さんと幸円さんのお話と繋がっています。
いつも以上に可哀想な長政(苦笑)
たまには鈍感な又兵衛も書いてみたくなっただけです。
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