『ほんの気まぐれ』



「寝ていれば、可愛いんですけどね」

隣で己の腕を枕にして、無防備に眠っている忠之に大膳は呟く。
昨夜は珍しく、いつもの相手と喧嘩でもしたのか
誘ってきたので乗ってやったのだ。
大膳は寝顔を見つめ、思わず笑う。
忠之の熱や、吐息、身体さえもが
今は自分の腕の中にあることが嬉しくてだ。
子供の時は独り占めだったのに‥。
そんな風に思わず考えてしまう。
大人になるにつれて、自分を疎ましく思い、離れていく忠之と
大人になっても相変わらず可愛くて、
愛おしくて‥昔よりももっと依存している自分。
成長できないのは自分だなと大膳は思い、ため息をつく。
十一も違うのだから、
ある意味子離れできない親と似ているかもしれないと苦笑する。
フッと忠之の瞳が開く。

「起きられました?」

優しく尋ねれば、眠そうな瞳が大膳を映す。

「おはようございます」

そろそろ起きていったほうがよろしいですよ?
と言おうとした唇を忠之が突然塞ぐ。

「と、殿?」
「まだダメだ‥」

眠いのか少し甘えたような声に大膳はぽかんとなる。
こんなことは珍しい。

「寝ぼけておいでですか」

苦笑気味に聞けば、忠之が不満そうな顔で見返してくる。

「誰が寝ぼけている?‥俺はちゃんと起きている」
「ならば、いつものようにさっさと仕事に行けと言ってくださいよ」
「何故だ?」
「貴方らしくないから」

その返事に忠之は一層不満そうな顔をする。

「俺の命令に逆らうのか?」
「いいえ、決して。
でも、‥貴方にしては珍しいご命令ですよ?」

いつもは前の晩のことを
忘れているかのような素っ気無さなのにと苦笑する。
忠之は不機嫌そうな顔のまま、大膳の首に腕を回し抱きつく。

「こういう日もある」

近くなった熱と吐息に大膳は思わず顔が緩んでしまい、苦笑した。
現金だな‥と。

「貴方の気まぐれは手痛いからほどほどにして欲しいですね」

そんな風にからかうように言えば、

「お前の優しさも後にただの小言になるからほどほどにしろ」

と忠之は意外な返事を返してきた。

「え?」
「昨夜はなんだ?俺が寂しがっているとでも思ったのか?
弱みにつけ込んで、優しくする手立てなど何処で倣った?
いけない男だな」

フッと笑った忠之に大膳が戸惑う。

「い、いえ‥そんなつもりは」

忠之にしては珍しい。
お前が優しいかったから、こうしている
という意味の言葉にドギマギしてしまい、大膳はうろたえる。

「大膳」

抱きついたまま、忠之が大膳を呼ぶ。

「はい‥」
「そういうところだけは、‥嫌いじゃない」

小言さえなければなと忠之は呟き、瞳を閉じて大膳の熱を感じる。
大膳は己の身体が必要以上の熱を持っていくのを感じながら、
これは殿の気まぐれ‥と己に言い聞かせる。
それでも、現金で正直な身体は忠之を抱きしめてしまう。

「‥私も貴方のそういう気まぐれなところ、結構好きですよ」

それで、美味しい目にあえるのなら
もっと気まぐれでもいいと思う自分に大膳は苦笑する。
我侭で気まぐれで、気分屋で態度がでかくて‥。
それでも一番好きな人。

「貴方が望むのなら、今朝はもう少しこのままで」

その言葉に忠之が眠そうに

「もう一眠りさせろ‥」

と呟く。
その言葉に

「嫌です。誘ったのは貴方なんですから、
ちゃんとこの責任は取ってくださいね?」

熱くなった頬を忠之にくっつけて言うと

「朝からか?
俺にあれこれ五月蝿いくせにお前も似たようなものではないか」

と笑う。

「いいんですよ。‥貴方が私を必要としてくれる時なんて
滅多にないんですから」

たとえ気まぐれだとしても、構いませんよ。

そう囁けば、

「変な男だ」

と小さく笑われた。



*久しぶりにお題を書いてみました。
 素敵なお題に何度も何度も書き直しては
 気に食わないと文句をつけて、消しました(汗)
 でも、結局最終的にできたのもこれだし、あまり推敲の意味はないかと‥。
 その上、なんかお題の意味と違う気がする‥。
 「ほんの」じゃないよな、これ(汗)
 この二人は難産だ‥。
 どちらの均衡も崩せないでいる私は、この関係に執着しすぎかもしれない‥。
 いっそ、はちゃけるくらいにどっちかが均衡を崩せばいいのに。

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