『貴方の歌声』

まだ部屋の明かりがついていることに気が付いて、
メイコは苦笑する。

「篤時ったら」

きっと、歌を作るのに夢中になっているのだろう。
歌を作っている時の篤時がメイコは好きだった。
初めて出会って、歌を作ってくれた時のことは
メイコにとって忘れられない思い出。
あれから少しも篤時は変わっていない。

「お茶でも入れてあげようかな?」

メイコはふふっと笑うと踵を返し、キッチンに行く。
お湯を沸かしながら、フッと思う。
歌を作ることがあんなにも好きで、
自分たちボーカロイドを人として扱ってくれる篤時。
そんな彼に自分は惹かれている。
彼は絶対本気にしてくれないけど、メイコには分かっている。
篤時は別にメイコが嫌いな訳じゃなくて、少しだけ恋愛に臆病なだけだと。
だから、気が付くまで待つのだ。
それまでアタックし続けるんだから‥とメイコは笑う。
きっと、眉を寄せて困るであろう篤時を思い浮かべて。
ポットにお湯を注ぎ、カップと共にメイコはお盆に乗せて篤時の部屋に向かった。

***

「入るわよ、篤時?」

ノックしてから、部屋のドアを開けてメイコは息を呑んだ。
防音の部屋の中。
篤時はヘッドホンをして、楽譜片手に歌っていた。
ボーカロイドには出せない生身の人間の歌声。
篤時特有の低くて、聞きやすい声が響いている。
メイコの顔が自然とほころぶ。
世界で一人だけ。
彼の歌声を聞くことができるボーカロイド。
それが自分だということ。
この声が紡ぐ歌が好きで、この人を好きになったんだと改めて思う。
聞きほれているとフッと歌声が途切れる。
閉じていた瞳を開ければ、篤時の驚きと困惑の混じった顔と視線が合う。

「な、‥なに勝手に見てんだっ」

カァァッと赤くなる篤時にメイコが笑う。

「ノックしたけど、篤時ったら気が付かないんだもの」
「そ、そうなのか?‥だからって」
「いいじゃない。私に聞かれる分には減らないでしょ?」

だって、昔は私に歌わせたい歌がうまく表現できなくて
わざわざ歌ってくれていたのだから‥と思う。

「分かっているとは思うが、俺は人に歌声聞かせるの苦手なんだよっ」

だから、お前がいるんだろ?と篤時が頭を掻く。

「分かってるわ。だから、貴方は私をここに置いてくれている。
私、貴方の傍にいられて幸せだわ」

メイコは微笑むとテーブルにお盆を置いて、お茶を入れて篤時に渡す。

「ねぇ?篤時」
「ん?」

カップを受け取る篤時の顔はまだ僅かに赤い。

「私、貴方の声、大好きだわ」
「は?」

再度、篤時の顔が赤くなっていく。

「ば、馬鹿言うなっ!!‥歌、あんま上手くねぇんだよ」
「あら、そんなことないじゃない」
「あのな、だからなんでお前がいるかっていうとっ」
「人前で歌うのが嫌いだから」
「そうだ」
「じゃあ、私とニコ動で歌うくらいはできるでしょ?」
「は?」
「だって、”人前”じゃないもの」
「っ!?‥てめぇっ」

篤時がメイコを少し睨んで、持っていた楽譜を渡す。

「お前の分の楽譜」
「ありがとう」
「‥歌の件だけどな」
「?」
「‥考えておいてやる」

ぶっきらぼうに言われた言葉にメイコが笑う。

「楽しみにしてるわ」
「あくまでも考えておくだけだぞ!‥どちらにしろ、歌が上手くねぇから」
「そんなことないって言ってるのに、篤時ったら」

”本当はこの声が聞けるのは私だけなんて、そんな特別感に浸ってもいたいけど”

「貴方の声は素敵だから、たくさんの人に聞いて欲しいの」

こんなにも歌が好きで、私たちを大切にしてくれている人がいるって知ってほしいから



*マス×メイ!めーちゃんとマスターが大好きですっ!!
 メイコマスターさんたちは皆さん、メイコへの愛が溢れていて素敵ですv
 なので、篤時を通してそんなマスターさんたちにメイコが想っていることなんかを
 恐れ多くも書かせて頂きました。
 めーちゃんはマスターが大好きで、大好きでたまらないと嬉しいですv

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