『古泉一樹の杞憂』

「長門さん、意外に残念だったんですね」

古泉は缶を開けながら、出切るだけ声に動揺が混ざらないように尋ねた。

「何を?」

長門も倣うように缶を開けながら尋ねる。

「ほら、告白の件です。
正直言えば、僕はあの手紙を裂いてしまいたかったんですが」

笑みを浮かべながらも、何処か複雑な表情の古泉。

「そ」

長門は気にも留めないで、缶に口をつける。

「彼が本当に長門さんを好きだったら、付き合ったりしましたか?」
「知りたい?」

無表情な瞳が古泉を映し出す。

「知りたくもあり、知りたくもないところです」
「教えてもかまわない。でも」
「はい?」

同じく缶に口をつけた古泉が動きを止める。

「貴方は妬いたの?」

長門の言葉が静寂に響く。

「え」
「彼が言っていた。貴方が一瞬怖い顔していた気がするって」
「‥彼が、ですか?」

こくんっと長門は頷く。

「あぁ、そう。そうですか。それは、‥失敗しましたね」

古泉は苦笑しながら、長門から目をそらす。

「したの?」
「え?」
「妬いたの?」

長門の声が確かめるように繰り返される。
古泉は迷っているように目を泳がす。
長門の無機質な瞳は古泉の顔を捉えて離さない。

「〜〜〜っ‥」

先に根負けしたのは古泉だった。

「これ以上、貴方に隠すのは無理のようですね」

彼にもばれた訳ですから‥と前置きして、古泉は長門に向き直る。

「えぇ、貴方が言うとおり僕は妬きました。
いわゆる、嫉妬というやつです。
貴方があの返事に色よい答えを出すのではないかと、少々取り乱していました」

少しばかり早口で言うと古泉は小さくため息を吐いた。
だが次の瞬間にはにっこり微笑み、人差し指を立てた。

「と、僕はこう白状します。で、貴方は?」
「?」
「忘れてしまいましたか?僕が知りたいのは、いいと返事をするかどうかです」

いつもどおりの爽やかさを振りまきながら尋ねる古泉に
長門は 缶の中身を少し飲んで呟く。

「妬いた」
「は?」

尋ねたこととはまったく関係のない返事に古泉が目を丸くする。

「い、いえ‥僕のことはもういいんですよ。
白状したとおり、確かに妬きました。‥僕を苛めたいのですか、長門さん?
やめてください、正直何度も言うのはその‥」

悔しいものがあるのだと古泉は心中思っていると長門が首を振った。

「貴方のことじゃない」
「え?」

これまた予想していなかった言葉に古泉は戸惑う。

「で、では‥誰の?」

長門がジッと古泉を見る。
そして、人差し指で自分を指す。

「‥え?」

古泉が呆然とする。

「朝比奈みくると貴方が、‥出て行った」
「‥‥」
「こうやって、飲んだ?」

カァァッと一気に古泉が赤くなる。

「違う?」

長門が小首をかしげる。

「ち、違わないですが‥その」

まさか、妬かれているとは思いもせず。
古泉は嬉しいやら困るやら驚いたやらでなんと言っていいか悩んだ。

「貴方だけ、妬かないのは可笑しい。だから、彼にはあぁ言った。困った?」

長門は淡々と語る。
だが、それは大きすぎるほどの告白。
自分だけ妬いているのは嫌だから、貴方も妬いて欲しい。
そんな意味のことを長門はさらっと告げている。
古泉は口元を押さえて、しばし目を閉じた。

「貴方という人は」

ずるい。

「何?」
「いいえ‥」

古泉は否定すると笑顔を作った。
まだ僅かに顔が赤い。

「長門さん、いいですか?」

長門は何をと尋ねそうになって、口を閉じた。
そして、ゆっくり頷く。

「僕が好きだといったら、付き合ってくれますね?」

返事を待たずに、古泉は長門に口付ける。
長門は何も言わず、何もせず黙って受け入れる。

ザァァッと風が吹いて、木の葉を巻き上げた。



*一目ぼれLoverネタです。
 いちお思い描いていたものでは、
 二人が恋人同士だったらな話もあったのですが書いているうちに未満となりました。
 珍しく長門と両想い。
 なにやらうちの古長は長門が主導権を握っているようです。
 すごいなぁ‥、長門(笑)
 いやぁ、‥ベタベタに甘いのはあまり書かないので、顔が引きつる(え)
 今度は恋人になった後も書きたいなぁ‥。


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