『ある日のこと』

心地よい風に当たりながら、長門は本をめくっている。
まだ、ハルヒもみくるもキョンも古泉いない。
静かな空間の中、長門の本をめくる音だけが響いている。
ブワッと突然強い風が入り、ページがめくれる。

「あれ、誰もいないんですね?」

それと同時に古泉が部室のドアを開け、入ってくる。

「長門さん、一人ですか?」

こくんっと長門は頷くことで返事をする。

「僕が、涼宮さんたちより早いなんて珍しいですね」

今日はいいことがありそうな気がしますと笑顔のまま、
古泉は長門に向かい合うように座った。
長門はしばし古泉の顔を見ていたが、すぐに本に没頭し始めた。
また静寂が空間を満たす。
長門は本に夢中になっていたが、フッと視線を感じて顔を上げる。

「何?」

見れば、古泉が頬杖をついて長門を見ていた。

「いえ、お気になさらず」

にこっと返される。

「あ、‥それとも気になって集中できませんか?」

こくんっと長門が頷く。

「そうでしたか、それはすみません。
長門さんの邪魔をするつもりはなかったんです」
「見ていて、‥楽しい?」

長門は思ったことをそのまま口にした。

「え?」

古泉が驚く。

「私を見ていて、楽しい?」

何もしていない自分をぼーっと見ることに、
この青年が”喜”を感じるとは到底思えない。
長門はそう思うからこそ、古泉に尋ねた。
古泉はしばらく黙っていたが、また笑顔を浮かべて

「楽しいですよ」

とハッキリ言った。
今度は長門が驚く。

「何故?」

分からないと呟く。

「何故‥ですか。その答えはなかなか難しいですね」
「私を見ていて”楽しい”と感じることはないと思う」

長門のハッキリした言葉に古泉が苦笑する。

「そうですねぇ‥。普通だったら、楽しくないかもしれないですね」
「普通?」
「えぇ。僕は、長門さんが好きだから楽しいんですよ」

長門の瞳が僅かに大きくなる。

「だから、貴方は楽しいと感じるの?」
「好きな女の子を眼で追うのは楽しいことですよ?
一挙一動、‥眼を離す暇さえないほどに」

クスッと笑う古泉に長門は

「そう‥」

とだけ答えた。
自分を見ていて、楽しいなんて。

「貴方は変わった人」

長門の呟きに

「そうですか?‥そうかもしれません」

と古泉が苦笑で答えた。
そこに部室のドアが開き

「あらぁ〜、古泉くん、早いじゃないっ!」

とハルヒが入ってくる。
続いて、キョンやみくるが入ってくる。
一気に部室内が騒がしくなる。

「えぇ、今日は掃除の当番じゃなかったもので」
「お前が早いなんて、珍しいな」
「雪が降るかもしれないですねぇ」
「あ、あの、いますぐお茶、入れますね」
「えぇ、お願いします」

代わる代わるに話しかけられ、それに答える古泉を長門は見つめる。


”好きな女の子を眼で追うのは楽しいことですよ?”


「‥そう」

長門は誰にも聞こえないように呟き、
本を閉じると 古泉を眼で追う。


一挙一動、‥眼を離す暇さえないほどに。





*久しぶりの古泉×長門です。
 今回は長門さん視点で書いて見ました。
 ぼーっと自転車こいでいる時に思いつきました(笑)
 私は妄想する時、自転車がいいようですね。
 前からこの二人はもっと書いてあげたいと思っていて、
 ハルヒノーマルオンリーがあったときに最高潮だったのですが
 忙しくて放ってました。
 個人的には小説読み返して気になった部分も四コマとかにしたいのですが。
 夏休み中にちょこちょこやっていこうと思います。

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