最近、なにやらお兄ちゃんの様子が変なのだ。
ボーっとして、何処か遠くを見つめている。
「どうしたんだろ‥カイト兄さん」
「あれじゃない?春だから、恋わずらいとか」
「へ!?」
「な〜んちゃって‥カイトがそんな訳ないじゃない!」
あははっとおかしそうに笑うお姉ちゃんだけど、
そう言われるとそわそわしちゃう。
お兄ちゃんに気になる女の人?
ありえないなんて一言じゃ片付けられなくて‥。
「聞けば良いじゃん、どうしたのか」
レン君はさらっとそんなこと言うけど、そんなの聞けないよぉ〜‥。
「頑張れ、ミクちゃん!」
ありがとう‥リンちゃん‥。
けどね、本当にお兄ちゃんが恋愛で悩んでいたらミク、
どうしたらいいかな?
「んー‥俺はないと思うけどな」
マスターに言われるとちょっと自信がつきますっ!
「なにそれ?俺だと何が大丈夫なんだ?」
とにもかくにも、みんなからアドバイスを貰って私、
お兄ちゃんに聞いてみたの。
どうしたの?って。
そしたら、お兄ちゃん‥。
「あぁ‥欲しいなぁ、
マドモワゼル・ベルベット‥って思っていただけだよ」
ってミクが見とれちゃうくらい格好いい笑顔で、
とんでもないこと言ったの。
マドモワゼルって女の人のことだよね!?
ベルベットさんって外人さん?
お兄ちゃんが好きなのって、大人の女の人?
雑誌とか、テレビとか見てみたけど外国の女の人って
みーんなメイコお姉ちゃんみたいにスタイルがいいの。
(マスターはメイコお姉ちゃんより外人さんの方が
スタイルいいって言って、
お姉ちゃんに鉄拳喰らっていたけど‥)
ミクみたいに背もちっちゃくて、
スタイルがダメダメな女の子じゃ
お兄ちゃんの恋人にはふさわしくないの?
そう思ったら、なんだか泣きたくなっちゃった。
「カイ兄がそんなんに興味持つとは思えないけど」
レン君はそうさらっと言うけど、ミクは駄目。
もう落ち込んじゃって、何もする気になれないの。
「おいおい‥歌くらいは歌ってくれよ?」
って、マスターはマスターなりに励まして(?)くれるけど‥。
(でも、お姉ちゃんにまた鉄拳もらってたけどね)
失恋って、苦しいよ‥。
でも、まだお兄ちゃんだって片思いかもしれないから
ミクが頑張れば振り向いてくれるかな?
「そうよ、そうよ!頑張りなさいよ、ミクっ!」
「頑張れ〜、ミクちゃ〜んっ!」
うん、頑張るよ、お姉ちゃん、リンちゃん!!
「あ、あのね、お兄ちゃん」
「なに?ミク」
笑ってくれるけど、やっぱりお兄ちゃんなんだかボーっとしてる。
「明日、何処か出かけようよ」
「明日?」
「うん」
こくんっと頷いたら、お兄ちゃんが嬉しそうに笑った。
あれ?巧くいったのかな?
「いいよ、ミク!ちょうど、出かけたかったんだ」
「本当!」
「うん。じゃあ、ミクにも教えてあげるね」
「なにを?」
「ベルベットだよ」
‥‥!?
お兄ちゃん、何時の間に呼び捨てになるくらい仲良しになったの?
ちょっと、ジェラシー‥。
「い、いいよ!私、負けないもんっ」
可愛い格好して、絶対、
絶対お兄ちゃんを振り向かせちゃうもん!
***
「お、お兄ちゃん?」
「ん?なぁに」
「こ、これ、なに?」
目の前に差し出されたのは、アイスクリーム。
「何って、アイスだよ」
お兄ちゃんがミクに向かって笑ってくれるのは嬉しいけど、
こんなことされているところ見られたら私がただの妹みたい。
(ううん‥お兄ちゃんにとっては妹だけど)
「欲しくない」
いつもなら喜んでもらうけど、欲しくなくて断ったの。
お兄ちゃんが凄く驚いている。
「欲しくないの?」
「うん」
だって、こんなの子供っぽいもん。
ミクが子供だって、お兄ちゃんは思っているけど
ミクはお兄ちゃんの恋人になりたいんだよ?
こんなに二時間もかけてお姉ちゃんに可愛くしてもらったけど、
やっぱり駄目なんだね。
お兄ちゃんにはベルベットさんの方が‥。
「そっか‥ミクはあんまり好きじゃないか、ベルベット」
「へ?」
い、今‥なんて言ったの、お兄ちゃん?
「美味しいんだけど‥。
まぁ、今はあまりアイスの季節じゃないもんね。
でも、一口だけ食べてよ」
ベルベットって言うのはビードロ、絹のことなんだけど
口当たりのいいアイスなんだよ!
なんてお兄ちゃんが嬉しそうに説明してくれる。
「ま、マドモワゼルってなに?」
「アイスの名前。面白いよね」
女の人みたいだとお兄ちゃん。
あれ?私、勘違い?
恥ずかしくなって、赤くなった顔を隠したかったから
アイスをお兄ちゃんの手から
取り戻して食べる。
甘い味が口いっぱいに広がる。
私‥、早とちり‥。
お兄ちゃんは好きな人が出来たんじゃなくて、
好きなアイスが出来ただけだったんだね?
よかったぁ〜‥(あれ、よかったのかな?)
「美味しい?」
「うん」
「よかった」
ごめんね、無理やり連れてきて‥なんて謝るお兄ちゃん。
ううん、いいの。
ミクはお兄ちゃんとデートできて、嬉しいよ。
(お兄ちゃんに好きな人もいなかったし)
「ねぇ、ミク」
「?」
「一口、頂戴」
!!!!
「やっぱり、これって美味しいよね」
か、か、間接キッス!?
はわぁ〜‥(はたり)
「ど、どうしたの?ミク。し、しっかりっ」
まだまだミクは子供。
お兄ちゃんにつりあう大人に、早くなりたいです‥。
終
*題名で既にネタバレな気もします(汗)
話を考えてくれた私の弟に感謝しますっ!
ミクはどこまでも女の子らしい女の子でいて欲しいなって思います。
それにしても大層な名前のアイスですねぇ。
ビロードのことって気が付いたのは名前付けた後でした(笑)