『妬かない』



「で、どうすれば良いと思う、次郎」

困った顔の晴信に信繁は呆れ顔を作った。

「お館様の色事には口を挟みたくはありませんが、
少しご自重なさったらどうですか?」
「むぅ‥そうは言っても」
「多いから、そのようなことが起きるんですよ?」

”小姓に嫉妬されて、機嫌を損ねられるなんて”

あほらしいと信繁はそっぽを向く。
兄はだいぶ困っているらしく、腕を組んでうなっている。

「はぁ‥」

信繁は小さくため息をつく。

「じゃあ、こうしたらいかがです?」
「何か策でもあるのか?」
「素直に手紙で謝るんです」
「は?」
「手紙で言葉にすれば、しっかりと届くし、 何より証拠になる。
一番信頼が置ける形だと思いますが」
「‥儂に書けと?」
「えぇ。自業自得ですから、どうぞ丹精こめて書いてください」

”反省の気持ちをたっぷり入れて”

と付け加えて、信繁は立ち上がろうとした。
その腕を晴信が掴む。

「ま、待て、待てッ!!」
「なんですか?まだ悩み事でも?」
「‥次郎、お前皮肉っているだろ?」
「は?」
「儂が色事に悩んでいるのをあほらしく思っているな?」
「えぇ、まぁ」

さらりと返し、信繁は苦笑する。

「よくもまぁそのような事で毎度問題を起こせると逆に感心します」
「嫌な弟だ」
「困った兄を持てば、こんな風にもなりますよ」

そういって、信繁はちょっと考え、言葉を続ける。

「いえ、兄とは不謹慎な発言でした。お許しを」
「二人きりだから構わないであろう?
しかも、また”お館様”とか呼んでおるし」

睨んでくる晴信に信繁は笑う。

「これも皮肉です」
「本当、嫌な弟よな‥お前は」
「えぇ、嫌な弟で結構です」

笑みを絶やさない信繁に晴信が突然黙り、
そのまま真剣な顔で信繁を見つめた。

「何か?」
「次郎」
「はい」
「お前は妬かぬのか?」

その言葉に信繁の顔から笑みが消え、驚きに変わる。

「なんとおっしゃいましたか?」
「妬かぬのかと尋ねた」
「誰がです?」
「次郎だ」

少しだけ苛立った様子の晴信に

「とんでもない」

と信繁が手を横に振る。

「何故、私が妬かねばならないのです?
兄上のなさることは、私には関係ないはず」
「そうハッキリ言われるとある意味で、寂しいな」

晴信はため息交じりで言う。

「だが、目の前で小姓と睦みあっておれば次郎とて妬くであろう?」

挑発的な兄の瞳に弟は穏やかな笑みを向ける。

「別に。その理由が分かりません。
私は兄上がしたいようにすればいいと思っていますし、
兄上をとられるなどというそんな幼稚な事で怒ったりしません」
「‥‥」
「兄上はお館様。民に至るまで全ての人の大切な方です」
「つまらぬ」

ぽつりと晴信が零す。

「は?」
「儂は小姓なんかが妬くより、次郎に妬いて欲しい」
「‥‥」
「お前の妬く顔がみたい」
「悪趣味な」

クスッと信繁が笑う。

「何?可愛い弟が兄をとられたくないと 喚く姿を見てみたいのが悪趣味か?」
「えぇ、悪趣味です」
「フン、妬かぬからそのように言う。‥そのうち、妬かせてやる」
「一生、ないと思われますが」

信繁の困ったような顔を見て、晴信が彼を引き寄せる。

「そのように可愛くないことを言うな。
つまらぬではないか。儂だけ妬くのは格好がつかぬ」
「妬くような相手がいないと思いますが」

晴信の腕の中に収まり、信繁は呟くように言う。

「いや、きっといるッ!だが‥」
「?」

顔を上げた信繁に口付けて、晴信は不敵に笑う。

「誰にもやらぬ」

信繁の顔が一層困ったように苦笑した。

*前のHPから持ってきたものです。
 信繁は絶対に妬かない!と思ったのがきっかけで書きました。
 小姓事件(勝手に命名)の時期も調べず書いたので、 あまり深く考えないで下さい。
 晴信が信繁にべったりならいいなって思ったので 今回こんな感じです。
 しかし、久しぶりに書いたら何故だか信繁くんの可愛くない性格が 着々と進行している気が(汗)
 長政とかべったりなので、 信繁のあっさりさはある意味違和感を感じます。
 ‥しかし、これって個人的に楽しい以外の何者でもないCPだなぁと 改めて思いました。
 ごめんなさい、マイナー思考で(汗)
 読んで好きかもと少し思ってくだされば、幸いです。

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