『成長中』



なんで、俺がこんなにソワソワしないといけないんだ‥。

清正はため息をついて、隣に座る友を見る。
ついこないだのことのようだが、彼と恋人になってもうだいぶ経つ。
その間、何かあったかといえば‥何もない。
前と同じ。
恋人となる前と同じ、親友の頃の付き合いとまったく変わらない。
それは悪いことじゃないし、
清正としても変な気を遣わないで済むからいいのだが‥。

だったら、別に恋人じゃなくてもいいじゃないか。

そう思ってしまう。
不満なわけじゃない。
正則は誰より優しくしてくれるし、
よくよく考えれば彼のそれは恋人になった今の方がよりそうだと言える。
それに、いつも一緒にいられる。
それだけで、十分だと言い聞かせるのに。

何か足りないと思うのは俺だけなのか?

そう心の中で問うてみるが、
当の正則は楽しそうに昨日のことを語っているだけ。

言葉じゃ上手くいえないな。

清正もまた、何をして欲しいのかがハッキリしないでいた。
ただ、ギュッと抱きしめられるだけじゃ足りない気がするだけ。

もし、そんなことを言ったら‥どんな顔をするだろうか?

尋ねてみたくもあり、尋ねてみたくない。
この満ち足りて見える関係が悪いほうに行くのなら、
一歩は踏み出してはいけないだろう‥。
そんなことを考えていると正則が喋るのをやめた。

「どうした?」

それに不思議に思って、声をかけると正則の真剣な眼差しとぶつかる。

「市‥」

松‥という言葉は口から出ず、
突然その場に押し倒され、清正は呆然となった。
覆いかぶさるようにして、
見つめてくる正則の眼差しが痛いくらい真っ直ぐで慌てて視線を逸らす。

近いッ‥。

そう思った瞬間、カァァッと身体が熱を持っていく。
それが恥ずかしくて、清正はギュッと目を瞑った。

「なぁ、お虎」

その耳に正則の声が入ってきて、ビクッと清正は身体を強張らせる。
近くなって初めて、彼の声が知っている声よりも
また低くなっていることに気がつく。
心地いいと常に思っていた声が、何故か今は怖い。
そう思ったら、この状況すら危なくて、怖いもののように思えて
清正は「退け」と叫ぼうとした。
だが、それよりも先に正則が可笑しそうに

「こうすると俺のが大きいよな?」

と口にした。

「え?」

ぽかんとする清正に正則は続けて、

「いつの間にか、お虎にはさ、背抜かされただろ?
俺、悔しかったんだ。だってさ、俺、お虎より小さいなんて格好悪い」

と言ってから、にっこり笑って

「けどさ、こうするとあんま変わんないよな。
へへっ、俺って頭いいだろ?」

と嬉しそうに言う。
その言葉に清正は唖然とし、‥真っ赤になった。

あぁ、いつもの市松だ‥。

そう安心したのもあるし、

自分は一体何を考えていたのだろう‥。

と恥ずかしくもあったから。
危うく怒鳴ってしまうところだったと反省する清正に
正則はまた真剣な顔を作り、

「そのうち、絶対お虎を抜かす。
大きくなって、俺がお虎を守るから」

と断言した。
その突然の告白に驚き、言葉を失った清正に正則は笑いかけると

「その時は、‥もっともっと恋人っぽいことしような」

と口にし、益々清正を慌てさせた。



*史実だと正則の方が背が小さいと聞いたので、
 それ関連の話を書いてみました。
 最初に書いた告白話をもっと少年のとき‥という設定にしたかったのですが、
 何を思ったのは普通に「清正」「正則」表記していることに今になって気がついて
 仕方なく、こちらもそのままの表記で通しました‥。
 なので、声変わり云々がなんか可笑しいことに‥(汗)
 恋人になって、すぐは二人とも親友の延長線みたいな感じだけど
 後に清正からだんだん意識していく‥みたいなのだといいなぁと思います。
 清正の方が一才上なのもあって、大人かなと思うので。
 正則は大人になっても子供のままっていうイメージがとてもあるので、
 きっと「恋人っぽいこと」と言っても限界がありそうです(笑)
 そこにまた、清正がヤキモキしたりすればいいなぁv
 題名はつけるのが苦手で‥、思春期っぽい話になったので
 成長(恋愛的な意味と身長的な意味)としてみました。
 題名がうまくつけられる人になりたい‥。

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