「あぁ〜‥」
気の抜けるような声を上げて、正則が縁側に寝転がる。
その隣に腰掛けて、清正は笑う。
「なんだ、もう根を上げるのか?」
「お虎、強すぎ‥。というかさ、手加減してくれよ」
ほら、こんなに打ち身と腕を見せる正則に清正がハッキリと
「もっと市松が訓練すれば、俺に勝てるようになる」
と言う。
「‥そりゃ、そうかもだけど」
その間にお虎はもっと強くなるじゃんと正則は言い返す。
「終わったのか?」
そこに吉継が手にお握りを持ってやってくる。
「紀之兄」
と清正が立ち上がりかけるのを止めて、
「おねね様が二人にと‥」
と持っていたお握りを渡す。
「おねね様がッ!!」
それまで倒れていた正則が吉継の言葉に勢いよく起き上がる。
「紀之兄もここで食べていったらどうだ?」
去っていこうとする吉継に清正は声をかけたが、
吉継は笑って手を振ると去っていってしまった。
「きっと、佐吉と食べるんじゃないかな」
既にお握りに手を伸ばす正則の言葉に
「なんでアレと紀之兄が親しいのか分からないな」
と清正が嫌そうな顔で呟き、座りなおす。
「なんでも紀之兄にとって、佐吉は親友で大切な奴なんだって」
お握りを頬張り言う正則に
「そこが分からない」
と清正もお握りを手にする。
「あんな嫌味な奴が紀之兄の親友なんて‥。信じられない」
だいたいあれは弱いじゃないかと
ぶつくさ文句を言いながら、お握りを頬張る清正。
正則は手についた米粒を舐め取りながら
「お虎は本当、佐吉のこと嫌いだよな」
と笑って言う。
「それはなんだ?市松は佐吉が好きなのか?」
清正は少しムッとして正則を睨みつける。
「そんなわけないじゃん。
‥お虎が嫌だって言うものは俺も嫌だ。
だから、佐吉もそんなに好きじゃないよ」
笑ったまま言う正則に「そんなに‥ってなんだ」と不満そうな清正。
そんな顔を見て、正則は一層笑うと
「ほらっ!お虎が食わないと、俺貰っちゃうけど?」
とお握りを指差す。
「お前、もう食べたのかっ!?」
そこで初めて正則が食べ終わっていることに気がついて、
清正は驚き、呆れた。
「ねね様が愛情を込めて握ってくれたお握りだぞ?
そんな早く食べる奴があるかッ!味わって食べたらどうだ」
「味わったって!美味しかったよ」
おねね様はやっぱ料理も上手だよなぁと
満足そうな正則を呆れた顔で見つめながら、
清正はまたお握りを頬張った。
「あ」
そこで突然正則が声を上げる。
「なんだ?」
清正がその声に正則を見た、瞬間。
「え‥?」
正則の顔が近づいて、清正の頬に近づくとペロッと舐めた。
ぼっと清正の顔が真っ赤になる。
「な、な、な‥」
なんだっ!?と叫びたいのに声にならないでいると正則が笑って
「ついてた、米粒」
と自分の頬を指差して言う。
たぶん、正則に深い意味はなく、ただ親切心なのだろうが‥。
清正は真っ赤な顔で言葉を失っている。
「やっぱ、おねね様の握ってくれたお握りだし、全部食べなきゃな!
‥あれ?どうしたんだ、お虎?」
気がついていない正則に
清正は持っていたお握りを全部口に頬張ると
「つ、続きだッ!今度は本気で行くから覚悟しろッ」
と怒鳴り、いそいそと庭に下りていった。
「え?まだやるの?」
足早に去っていく清正の背中に正則が尋ねるが答えはない。
「本気って‥さっきのは本気じゃないのか、お虎ッ!?
え、お、俺もう無理だってッ!!」
正則は慌てて立ち上がると清正の後を追った。
終
*あんまり発展しないのが正則と清正だと思います‥(苦笑)
久しぶりに二人を書いてみました。
正則は本気で何かするときは
中学生並みにドキドキして上手くいかなきゃいいし、
無意識のときは清正がドキドキするのも
気がつかずさらっとやればいいです。
いつでも清正が一方的にドキドキしていればいいですw
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