「主殿の計らいで歌のれこーでぃんぐとやらを
やることになったでござるッ」
そう嬉しそうに話してくれたのは三日前。
ふーんと興味なさ気に聞いていたのに、相手は目をキラキラ輝かせて
「それで!もし、お暇なら見に来てくだされッ」
と言ってきた。
なんで、私が‥とその時はルカも思ったが、
「結局、見に来ている私って‥」
絆されたとか、来なかった時に
がっくりする顔を見たくないとかじゃないのよと
心の中で呟いて、ビルの中に入った。
受付の女性に尋ねれば、すぐに場所を教えてくれたが
ルカは行くのに迷った。
別段、興味のない相手のために
ここまでする自分ってなんだろうと少し思ったからだ。
だって、手の中には差し入れのケーキ。
ケーキなんて、サムライは口にするのかしら?と思ったが、
これしか思いつかなかったのだ。
「これだけ置いて帰ろうかしら‥」
と教えてもらった部屋の前で立ち尽くしていると
中から演奏が聞こえてきた。
それと同時に、彼の声。
少し低めの声が紡ぐ言葉にルカはしばし、我を忘れて聞き入った。
”思っていたより‥”
――ずっと、上手。
いつもはへらへら笑って、
「ルカ殿、ルカ殿」と犬のようにくっついてくる
邪魔な男‥と思っていたのに。
その声に惹かれるように、部屋の中に足を運ぶと
一気に彼の声が近く、大きくなる。
見つめた先の、真剣な眼差し。
彼には今、歌うことしか見えていない。
その姿にルカは
――格好いい。
そう思わずにはいられなかった。
歌を歌う姿を目が追ってしまう。
一瞬も見逃さないように見つめている自分に気がついて、
ルカは苦笑した。
”いつも追いかけているのは、あっちなのに”と。
だが、歌を歌う彼は文句なしに格好いい。
様になる。
”なんだか、悔しい‥”
ドキドキさせられてしまった自分がいるから。
こんな格好いいところを持っているのだと、
見せ付けられてしまった。
”いつもはアレなのに‥”
そんな風に見つめていると隣に彼のマスターがやってきた。
「あいつ、君に聴かせたいってすごい練習していたんだ」
耳元に囁かれた言葉にルカの頬が赤くなる。
突然彼の言葉に色がついたから。
見惚れていた訳じゃないが、その姿に見入っていたせいで
歌詞が頭に入っていなかった。
それは、恋の歌で‥。
「バカじゃないのっ」
思わず呟く。
熱くなっていく頬に歌が終わる前には熱がひけばいいけど‥と思う。
演奏が終わると共に、彼の歌声も終わってしまう。
しばらく、彼の声が脳内に響いていて消えてくれそうにもない。
ルカは彼のマスターにケーキの箱を渡すと部屋を出ようとした。
「ルカ殿!来てくださったのだな」
急いで出てきた相手にルカは立ち止まって、振り返る。
「その、‥どうでござろうか?」
僅かに赤くなって尋ねてくるのに
「良かったわ」
と少し微笑んで言ってやる。
パッと嬉しそうになる顔。
「あ!‥そ、その、良かったら、この後拙者と‥」
お茶でも‥と動く唇を人差し指で止めて、
「また、ね‥」
と返す。
途端、しゅんっと落ち込む相手にルカは苦笑する。
「そういう意味じゃないわ。今日は‥」
――さっきの貴方を焼き付けておきたいから。
「え?」
ルカの言葉に驚く相手。
その顔に笑って見せて、ルカはその場を去った。
背後から、
「では‥、また今度」
と少し嬉しそうな声が返ってくるのを聴きながら。
終
*初めてのがくルカです。
もっと甘いのとか書きたかったのですが、
この話は二人を見たときにすぐ書きたいと思ったものです。
歌う殿を見て、違う面を見つけてどんどん興味を持って、
好きになっていくルカちゃん‥というのって可愛いなぁと思って(笑)
殿は一目惚れですが、ルカちゃんはゆっくりと好きな場所を探していって、
最終的に大好きになっていたらいいですv
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