何故、私は初音さんのコピーなのに上手く歌えないの?
上手く‥歌いたいのに。
「あ、待った!ハク」
「は、はい」
ピタッと音楽が止まってしまい、ハクがうな垂れる。
どうやら間違えてしまったようだ。
「今のワンテンポ遅いかもしれないね。もう少し早くていいよ」
章明が優しく言うがハクは内心落ち込んでいた。
”また、‥やちゃった”
本当は上手く歌って、章明が喜ぶ顔がみたいのに。
そう思うほど失敗が増える。
「そういえば、こんな時間なんだね‥。
そろそろ休憩にしようか?
また、後でやろうね」
グシャグシャとハクを撫でて、章明が部屋を出て行く。
残されたハクは楽譜を見つめたまま、動かない。
「マスター、いる?」
少し違いぐらいにアカイトが部屋に入ってくる。
「ん?ハク?‥一人?」
アカイトの言葉はハクの耳には届いていない。
”私、ダメダメ‥”
「おい、ハク?」
”歌えないし、なんの役にも立たないし。初音さんの派生なのに”
「おーい!」
「私なんて‥消えちゃえばいいのに」
”マスターの役に立たないなら”
「バカいうなよっ!!」
バンッと壁を叩く音にハッとハクが顔を上げる。
「あ、アカイトさん?」
「誰がハクに向かって”いらない”なんて言ったんだっ!俺が絞めてやるっ」
怒りでいつも以上に近寄りがたいアカイトにハクが怯えながら、首を振る。
「ち、違うんです」
「何が違うんだよっ!ハクにそんな風に言わせる奴なんてろくな奴じゃねぇ」
「私が自分に言ったんですっ」
「え?」
ハクの必死の叫びにアカイトが唖然とする。
「自分に?」
コクンッとハクが頷く。
「なんで?」
「初音ミクの派生なのに、私‥歌が下手でお役に立てないから」
だから、自分なんて必要ないと思った。
そうハクが告げるとアカイトは頭を掻くとハクの傍に腰掛けた。
「言っておくけどさ。‥ハクはハクだぜ」
「え?」
「初音ミクの派生だかなんだかしらねぇけど、ハクはハク以外の誰でもないだろ?
マスターも、ネルも、帯人も、サイも、俺も誰もハクを初音ミクとして扱ったか?」
フルフルとハクが首を振る。
「そういうこと。俺もKAITOじゃない。アカイトだ」
ただの派生。
「けど、俺はKAITOに負ける気はねぇし、
あいつが本物で俺が偽者だなんて思ったことねぇ」
「‥‥」
「ハクにはハクのいいところがあるぜ?
だから、そんな風に自分のこと下に見るなよ」
「でもっ」
ハクはアカイトの顔を見て、言う。
「私、歌下手くそで‥マスターに一度も喜んでもらえてないの。
そんなの嫌っ!私も歌いたい‥」
「歌えばいいじゃん」
「え?‥だ、だから」
「下手でもいいだろ?‥歌いたきゃ、歌えよ」
ニッとアカイトが笑うとハクの楽譜を見た。
「歌ってみろよ。‥手伝ってやるからさ」
「で、でも」
足引っ張っちゃうとブツブツ言うハクの手を引いて、立ち上がらせる。
「余計な心配すんなよ。‥俺は、ハクの声好きだぜ」
下手なんてことないと俺は思うけど‥
と言うとアカイトはテンポをとりはじめ、歌いだす。
瞳がハクを映し出して”歌えよ”と促す。
ハクはオロオロしていたが、息を吸うと歌いだした。
緊張して、少し上ずったり、つまずいたりする。
そのたびにハクは声を小さくするが、アカイトが気にせず続ける。
あくまでハクの歌声に合わせる補助。
ハクはそんなアカイトの行動に少しずつ、気持ちを落ち着かせた。
上手くは合わないが、二人の声が歌を紡ぐ。
***
ハクは最期まで歌いきり、驚いた。
いつの間に来たのか章明とネルが聞いていた。
歌うのに夢中になっていたらしい。
終わると同時に二人が拍手をしてくれる。
「すごいじゃないか、ハク」
「やるじゃん、ハク」
二人から賞賛の言葉を貰って、ハクは恥ずかしさに俯いた。
横をそっと見れば、アカイトが楽しそうな顔で笑った。
「ほらな、歌えたじゃん」
その笑顔にハクも笑顔で返す。
「はい、歌えました!」
「これなら、すぐにでもUPできるね」
ウキウキと喜ぶ章明にハクは
「本当ですかっ!?」
と一層笑顔になる。
「このままだと、今度のランキングはハクに抜かされるかも」
と少し不満そうなネルに
「ネルにも歌作ってあげるから」
と慌てて言う章明を横目にハクはアカイトの傍によった。
「アカイトさん」
「ん?」
「ありがとう」
貴方が一緒に歌ってくれたから、私歌えました。
ハクの言葉にアカイトの頬が赤くなっていく。
「お、俺は別に。
よかったじゃん‥マスターの笑顔、見れたし」
「はいっ」
ミクさんじゃなくて、私は弱音ハク。
歌は上手じゃないけど、‥マスターの歌をたくさん歌いたい。
上手くなくても、たくさん。
「私、たくさん歌、歌いたいです」
ハクはハッキリとそう告げた。
終
*ハクちゃんにスポットあててみました。
赤白っていうか、ハクちゃんのお話です。
私はハク姉さんが大好きですっ!!
歌下手でもいいじゃないっ!!
愛してますっ!
そんな気持ちで書いたお話(笑)
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