桜華茶房

『「はじめまして」』


「な、な、なんでお前がいるんだよっ!!」

怒鳴り声に、傍にいた章明とネルが目を丸くする。

「ちょっと、アカイト、あんた煩い」

不機嫌そうにネルに文句を言われるが、
アカイトの視線は目の前の少女にしか注がれていない。

「はぁ〜い、親愛なるお兄ちゃんv お久しぶりです」

キュルンッといかにも可愛い子ぶった少女は、アカイトと瓜二つである。
せいぜい違うとしたら、男か女かぐらいで他はほとんど変わらない。

「お、お前、いつこっちに来たんだっ」
「今日よ。お兄ちゃんったら、
可愛い妹が久しぶりに出した手紙に返事もくれないんだもん」

私、待ちくたびれて来ちゃった。
てへっと笑う少女にアカイトは
”あんなの可愛い手紙とやらじゃない”そう思う。
四日前に来た手紙はどう考えたって、脅しの手紙だ。
アカイトにしてみれば、不幸の手紙と言っても過言じゃない。

「あんたにも妹がいたのね」

やりとりを見ていたネルがアカイトに声をかける。
マスターである章明も、興味しんしんに少女を見つめている。

”こんなの妹じゃねぇよ!”

そう叫ぼうとしたアカイトより早く
少女はクルッとネルと章明の方へ向き直ると

「お兄ちゃんがお世話になっています!妹のアカイコと申します。
しばらく兄共々お世話になりますが、よろしくお願いしますね」

そうとびっきり可愛い笑顔を浮かべた。
それからネルの手をとり

「あ!兄から話は聞いています。ネルさんですよね?
私、お姉ちゃんが欲しいなぁとずっと思っていたんです!
ネルお姉ちゃんって、呼んでもいいですか?」

そう一気に喋った。
これには、さしものネルも押されてしまい

「う、うん‥構わないけど」

そう答えるしかない。

「嬉しいですv ネルお姉ちゃんは兄の話で聞くより
ずっと、ずっと可愛い方ですね〜v 羨ましいーっ!」

ネルの手をとったまま、
ピョンピョンっと小さく飛び跳ねながら黄色い声を上げるアカイコ。
ネルも悪い気はしないのか照れながら

「そ、そうかな?けど、私そんなに可愛くないよ」

そう返している。

「そんなことないですよぉ〜」
「そ、そう?」

すっかりアカイコのペースに巻き込まれている。

「‥女子高生みてぇ」

そんなアカイコを見つめながら
自分の妹ながら、煩い奴とアカイトは思う。
だから、連れてきたくなかったのだ。
まず、最初に外面がいいのだ。
次に口がうまい。
とにかく男女問わず、愛想がいい。
だから、こうやって人に取り入るのがうまいのだ。
だが、それは所詮アカイコの表の面でしかない。

「きゃ〜、見て、お兄ちゃん!
ネルお姉ちゃんとメアド、交換しちゃったv」

パタパタと戻ってきたアカイコに

「あぁ‥そうかよ」

とアカイトは呆れ気味に返す。

「あんたに妹がいるって、知らなかったけど可愛いじゃん」

ネルの言葉にアカイトが

「んなわけねぇって!こんな奴、凶ぼ‥」

そう返そうとした瞬間、思いっきり足を踏まれて言葉に詰まった。

「あぁ〜っ!ごっめんね、お兄ちゃん!
あまりの嬉しさにはしゃぎ過ぎて、足踏んじゃった」

許してね?と笑うアカイコだが、アカイトには見える。

”余計なこと言ったら、ただじゃ済まさないから”

アカイコのアカイトに注がれる視線は決して、笑っていない。

”くそっ‥妹の分際で”

思いっきり踏まれた足が痛む。
アカイコは再度ネルと章明に向き直ると可愛い声で

「あの、ネルお姉ちゃん?
私、まだ来たばっかりで
荷物の整理とか終わっていないので失礼しますね?
マスターさんも今度ちゃんとお話させてくださいね?」

そう告げる。

「私、手伝おうか?」

ネルが手を上げて返すが

「えぇ〜!悪いですよ〜!
それに心配しなくても、兄がおりますから」

そう笑顔で告げる。
それとはうらはらにアカイトの腕を掴む手には
ありえない力が加わっていた。
お陰でアカイトは何も文句を言えず、
そのまま引きずられるようにその場を後にした。


***


「で、なんなんだよ。
‥別にネルに会う為に来たんじゃねぇんだろ?」

己のフォルダーまで引っ張られ、
やっと解放されるとアカイトは妹に向き合って尋ねた。

「あら、察しだけは良いじゃない、馬鹿なわりには」
「‥馬鹿は余計だ」

”ほら見ろ‥いつも通りじゃねぇか。どこが可愛いんだよ”

いうなら、アカイコは猫かぶりなのだ。
だが、絶対に誰も気がつかない。
だから、いつもアカイトは辛い思いをするわけなのだが‥。

「取引しない?」
「は?」
「簡単なことよ。
お兄ちゃんは、ハクさんが好きなんでしょ?」
「なっ!?」

ハッキリと告げられたことにアカイトがオタオタと慌て

「あ、あんま、おっきい声で言うなよなっ」

そう怒鳴る。

「なによ‥、別に良いじゃない。チキン」
「う、うるせぇ!で、なんなんだよッ!
もしや、俺とハクの邪魔しに来たのかよ」

それは困る。
そんなことになったら、悪魔を敵に回すのと同じことだ。
いうなら、妹は小悪魔なのだ。
凶暴で、性格の悪い‥。
だが、アカイコは「ハッ」と鼻で笑うと

「なんで私がそんな無粋な事しに
わざわざ見たくもないお兄ちゃんの顔を
見に来なきゃいけないわけぇ?冗談じゃないわ!
私、人様の恋愛にケチつけるような悪女じゃないですから」
「似たようなもんだろうが」

アカイトの鳩尾に見えないパンチが飛ぶ。

「次言ったら、気絶させるから」
「‥か、加減をしらねぇのかよ‥馬鹿力」
「あ〜ら、やだ!可愛い女の子を捕まえて馬鹿力?ひっどぉ〜い」

”む、むかつく‥”

ネルに何を言われようと、デルにどんな本音を言われても
怒りに堪えられるアカイトだがこの妹にだけはどうにもそれができない。
それでも、本気で怒らないのは兄の面子があるからだ。

「あぁ〜っ、早く本題をいえよッ!!なんなんだよっ」

”人の平和を壊しやがってッ!!”

心でそう叫びながら、尋ねるとアカイコは突然頬を赤らめた。

「え〜‥ちょっと、待って。心の準備ができてないもの」

意味が分からない。

「さっさと言えよ」
「ん〜‥どうしようかな?
お兄ちゃんにはこの素敵な恋物語を話すのもったいないけど‥、
本題を話せないから言っちゃうね?」
「回りくどいんだよ」
「あのね、実は私、デルさんが好きなのv」

きゃ〜っ、言っちゃった〜っ!!と
アカイコが顔を手で押さえて首を振る。

「は?」

その行動と言葉にアカイトが呆然とする。

「だーかーら!デルさんに恋しちゃったの。
こないだね、町で不良に絡まれていたところを助けてもらったのv
彼ってば、ポケットに手を入れたまま、
蹴りだけで不良を倒したんだからっ!
もう、めっちゃくちゃ格好良かったのぉ〜!!」
「へ、へぇ‥‥」

デルがねぇ‥と思う。
どちらかといえば、干渉を嫌うほうなのだが‥

”機嫌でも悪かったんだな、きっと”

第一、妹に助けなど要らない。
絡まれても、コテンパンにのせるから‥
(とは、口が裂けても言わないが)

「だからね、お兄ちゃん」

ずいっとアカイコが身を乗り出す。

「私がデルさんとくっつけるように支援して欲しいの。
私もお兄ちゃんがハクさんとくっつけるように頑張るから」
「え?」
「もう、ボーっと聞いてんじゃないわよっ!
これだから、低知能ボーカロイドは。
もう一回言ってあげよっか?」
「低知能じゃねぇよ!言っている意味は分かったよっ」

だけど、‥アカイコが手伝ってくれる?
断ったほうがいい。
なんとなく、アカイトの身体の中の
危険信号がそう言っている気がする。
ろくな事がなさそうだからだ。

「あのな、アカイコ。俺は別に‥」

助けなんかいらねぇ!
そう言い切る前にタイミング良く‥、
アカイトにとっては悪い訳だがハクが顔を覗かせた。

「あの〜、アカイトさん、いますか?」

ゲッと思うより早くアカイコが目を輝かせて、
ハクの傍まですっ飛んで行くと

「あのあの、ハクさんですよね?
私、アカイトの妹でアカイコと申します!
お話は聞いていましたが、実際に見ると美人さん〜っ!
えっと、えっと、まだこっちに来てお友達も少ないですし、
兄しかいないので、是非ハクさんにも
私のお姉ちゃんになって欲しいですっ!
あの、ハクお姉ちゃんって呼んだらご迷惑ですか?」

そんな風にまくし立てる。
とき既に遅し、呆然とするアカイトを
尻目にハクが照れたような顔に笑顔を浮かべ

「アカイトさんの妹さん、可愛いですね」

そう口にした。
うわっ!?と思うアカイトにアカイコが

”そういうことで。‥よろしくね、お兄ちゃん”

そう不気味な笑みを浮かべた。

”う、嘘だろーーッ!?”

こうして、アカイトは問答無用で
取引に応じる羽目になるのだった‥。


続く‥?


*ラブラブを書くのにリハビリ中なので、
 以前から絵でちょっと出ている
 アカイコちゃんにスポットをあててみました。
 アカイトとは兄妹設定です。
 がくぽとがくこのところのように
 二人分のソフトがある兄妹じゃなく、
 バグによって男女に分かれたのがここの兄妹って設定。
 (ある意味、ネルのところやハクのところも一緒)
 私にしては珍しい性格の女の子ですが、男に負けない女の子大好きです。
 ちょっと、猫かぶりな子ですが恋に一途な女の子です。
 アカイトにとっては受難ですが、
 以後ちょいちょい出してあげたいなと思いますv


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