「え?」
何かが消えるような、切れたような‥プツンっという無感動な音。
それと同時に自分の背後が真っ暗になっていく。
深い深い闇がこちらへと迫ってくる。
あぁ‥、これはいけないもの。
頭の中の何処かがそんな風に警告する。
それなのに、身体が動かない。
そのうち、目の前にシャッターのようなものが下りて、
エラーという赤い文字が目の前に広がった。
***
「どういうことだよっ!!何が起こったんだよっ!!」
パソコン内から出てきたアカイトは怒鳴るようにして章明に迫った。
「ちょ、止めなさいよねっ!!
章明だって、まだ原因が分かんないんだからっ」
今にも掴みかかりそうなアカイトを押さえネルが怒鳴り返す。
「ごめん‥、みんな。
僕にも何が起こっているのか分からないんだ」
たぶん、ウイルスだと思うと言う章明に
フォルダーから抜け出てきた帯人が
「サイもどうやら無事みたいだ。
‥おかしくなったのは、一部みたいだが」
と、冷静に呟く。
「原因は今、解明中よ。
たぶん、ウイルスだからワクチンすれば治るだろうけど」
と、ネルが返す。
「あれ、ハクは?」
そこで章明が気がついたように口にし、皆が動きを止める。
「そうだ‥ハクは?ハクは何処なんだよっ!!」
アカイトが真っ青な顔で喚く。
帯人は力なく首を横に振り、見ていないと呟く。
ネルはしばらく考え込むとパソコンを突然弄りだした。
「ねぇ、ハク姉のフォルダーって何処?」
「確か、帯人の隣な筈だけど」
そこまで章明は言って、突然口を押さえる。
「そんなっ‥じゃあ、ハクは‥」
息を呑むような声にネルが辛そうに顔を背けた。
「冗談じゃねぇよっ!!」
バンッとアカイトが机を叩く。
「ハクのフォルダーがウイルスに感染したってのか?
嘘だっ!!何かの間違いだろっ!!」
「残念ながら、そういうことになるな」
帯人のいつもは無感動な声に少し辛そうな色が含まれる。
「なぁ、章明っ!!ハクは消えたりしねぇよな?
無事なんだよなっ!!」
「いちお‥そうであることを祈るけど」
力なく返されて、アカイトは呆然となった。
「嘘だろ‥そんなことってあるかよ‥。
なんで‥なんでハクなんだよ‥っ」
自分が見た暗く深い闇を思い出して、アカイトは唇を噛んだ。
「きっと‥ハクはすげぇ怖がってる。
なんで、俺がウイルスに感染しなかったんだ?
どうして、俺じゃなかったんだよっ」
アカイトの悲痛な叫びにネルや帯人、
章明は黙り込んでいる。
皆、アカイトの気持ちが分かるからこそ表情が硬い。
「くそッ!!」
再度机をアカイトが叩いた瞬間、
「あのね、お兄ちゃんっ」
サイがパソコン内からひょっこりと現れ、帯人の袖を引っ張る。
「今調べてみたけどハクお姉ちゃん、無事だよ。
ワクチンも効きそうだし、なんとかなるよっ」
と、笑顔を作ってみせた。
その言葉にそこにいた全員が安堵の息をついた。
「今は、無事復旧することを祈ろう」
章明はそう言い、少しだけ笑ってみせた。
***
「もう少しだからな。負けるなよ、ハク」
締め切られたハクのフォルダーの前、
アカイトは呟くようにエールを送り続ける。
「それ以上行くとあんたも危ないわよ」
そんなアカイトにネルが声をかける。
「分かってるよ。
けど、この中にハクが一人ぼっちだと思うと
待ってるのがもどかしいんだよ」
「‥分かんなくないけど、それは」
ネルは少しため息をつくと、アカイトに近寄り肩を叩く。
「ハク姉が、帰ってきたら飲めるように
暖かいスープでも作って貰っとく。
だから、‥あんたも無理しない程度にエール送ってよ。
悔しいけど、いざとなった時にハク姉が頼るのはあんただし。
倒れられちゃ困るんだから」
「言われなくても、そうするさ」
少しだけ笑って見せたアカイトにネルも笑って見せる。
途端、周りが明るくなり、シャッターが上がっていく。
「復旧したみたい」
ネルが驚いているとアカイトが
シャッターが上がりきるのももどかしいのか、くぐって入っていく。
「ちょ、ちょっと、アカイトっ!!」
ネルが慌てて続く。
「良かった‥ハクっ!!」
こちらにフラフラと歩いてくるハクの姿を見つけ、
アカイトが抱きつく。
倒れそうになるのをギュッと抱きしめて
「無事で良かった‥」
と何度も繰り返す。
やれやれとネルが小さくため息をつく。
「泣いてるんですか、アカイトさん?」
ハクは疲れきっているが穏やかに笑っている。
「当たり前だろ。‥ハクがどんだけ辛かったか
想像すると苦しくて堪んなかったっ」
「アカイトさんの、頑張れって気持ち届いてました」
抱きしめてくれるアカイトにハクはそう返す。
「そっか。‥頑張ったな、ハク」
「私、頑張りすぎてお腹減っちゃいました‥」
アカイトに向かってふふっと小さく笑うハクに
「章明のとこ、行ってくるわ」
とネルがパソコンから出て行く。
「なぁ、ハク‥ごめんな。俺、何もできなかった」
「そんなことないですよ」
ハクは済まなそうに言うアカイトに首を振って呟く。
「目の前が真っ暗になっていく中で、
アカイトさんが私を心配してくれている声をたくさん聞きました。
ここで負けちゃったら、
マスターにもネルさんにも帯人さんにもサイちゃんにも‥
そして心配してくれている
アカイトさんにも会えないんだって思って」
「ハクが消えちゃわなくて良かった‥」
ハクを抱きしめて、ここにいるということを確認する。
「もう、二度とハクをこんな目にはあわせねぇからな」
消えさせたりしない。
嬉しそうに、でも力強く言うアカイトにハクは微笑むと
「はい」
と返事して、抱き返した。
途端、ハクのお腹が小さくなって恥ずかしそうに目を伏せた。
「悪ぃ、早くご飯にしなきゃな」
アカイトは笑うと、
ハクの手をとってパソコンの外へと連れ出した。
もう、離さないようにギュッと力強くハクの手を握り締めて。
終
*アカハクで「消失」を書いて見たいと以前から思っていて、
少しずつ進めていたのですが
書き上げてみるともっと色々書けば良かったなぁと‥思います(汗)
アカイトはこういうときだけ、無意識に格好いいと良いなぁと思います。
普段絶対やらないことを
あっさりやっていることに気がつかないアカイト(笑)
章明くん家のボカロを全員書けて楽しかったですv
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