『紅葉』



「わぁ〜!」

突然嬉しそうに駆け出したハクにアカイトは慌てて、
おつりを貰うと追いかけた。
二人は章明に買い物を頼まれて出てきたのだ。

「ど、どうしたんだよ、ハク」

寺の前で立ち止まったハクにアカイトは息を切らせて尋ねる。
ハクはそんなアカイトに嬉しそうに笑うと

「紅葉ですっ!」

と寺の中を指差した。

「すげぇ‥」

アカイトも見事な紅葉に思わず声を上げる。

「真っ赤な絨毯ですね」

ハクは寺の庭の中へと飛び跳ねるように入っていく。
そして、しゃがみ込んではキレイな紅葉を手にすると

「ほらほら、アカイトさん!可愛いですねっ」

とアカイトに見せる。
それにアカイトは笑うと

「キレイだな」

と返す。

「私、紅葉が大好きなんですっ!」

嬉しそうに言うハクにアカイトも心の中で「自分もだ」と頷き、
己も寺の庭へと入っていく。
足元一面石畳に広がる赤い紅葉。

「‥すげぇ‥確かにこりゃ絨毯だな」

アカイトは思わず呟いて、可笑しそうに笑う。
ハクを探すように視線を移せば、
彼女はもう庭の真ん中にある池へと行ってしまっている。
なにやら池を覗き込んで、ぼーっとしている。
池に浮かぶ紅葉に見蕩れているのだろうか。
アカイトはそんな姿に「可愛い」と思い、口元を緩ませる。
彼女から視線を逸らすとアカイトは一際大きな紅葉の木の傍に行った。

「真っ赤だ‥」

自分の大好きな色である赤が目の前に広がっている。
その綺麗な色を目に焼き付けようとアカイトはそっと瞼を閉じた。
途端、ザァァァッと風が吹く。
紅葉が舞い落ちたり、舞い上がる音が耳に聞こえる。
途端、背中に暖かいものを感じ、アカイトは目を開いた。
後ろを見れば、ギュッとハクが抱きついていた。

「ハク?」

尋ねれば、ハクはなにやら不安そうにアカイトを見上げて

「‥アカイトさん」

と呟く。

「どうしたんだ?」

振り返って、向かい合うとハクは泣きそうな顔で

「今、‥アカイトさんが紅葉と一緒に掻き消えちゃいそうで‥」

怖かったんです‥と小声で呟く。
アカイトはその言葉に驚き、‥優しく笑ってみせると

「大丈夫。‥俺はハクの傍にずっといる」

そういって頭を撫でてやった。

「‥はい」

その言葉にハクが安心したように笑った。
そこでアカイトはハッと我に返り、
自分の言葉を反芻して赤くなる。

「い、いや‥その、今のは‥だな。え、えっと」

ハクを不安がらせないために‥と言った言葉が
愛の告白じみていて、慌てるアカイト。

「そ、それよりもさ!
紅葉ってさ、俺の色でもあるけどハクの瞳の色も一緒だよな」

無理やり変えた話題もまるで一緒で嬉しいと
言っているようで、再度赤くなる。
アカイトが言葉に困っているとハクは嬉しそうに笑い

「はい、一緒ですね。
私とアカイトさんと、紅葉と‥。みーんな大好きな色です」

とハッキリ言った。
その言葉にアカイトは耳まで赤くなる。

「そ、その‥ハク」

それってさ‥と思わず問い返そうとしたアカイトにハクが

「‥あ」

と手を叩き、ほわっと笑うと

「紅葉って、アカイトさんと同じ色だから安心するんですね」

今分かりましたと嬉しそうにいい

「だから、私、紅葉が好きなんですね」

と続けた。

――その言葉にアカイトが
全ての思考を停止させたのは言うまでもない。



*久しぶりなアカハクです。
 書き途中がありますが、紅葉の季節にやっておきたかったので
 急遽こちらから書き上げました。
 私も紅葉大好きです。
 秋は紅葉、春は桜です。
 ハクは赤が好きだといいです。
 それはアカイトが好きだからというところに行き着くまで
 まだまだ時間がかかりそうですが‥(笑)


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