『プレゼント』


「なんで、あんたと行かなきゃいけないわけぇ〜」

とブツブツ文句を言うネル。
その後を買い物袋を持ってついていくアカイト。

「しかたねぇだろ‥じゃんけんで負けたんだし」

俺だって、ハクと行きてぇよと文句を言い返す。
二人は、現在章明の言いつけで買い物に出ていた。

「‥これで全部?」

ネルはちらっと手の中の紙を見て、アカイトに尋ねる。

「しらねぇよ‥。つーか、全部持たせておいてそれかよ」
「五月蝿いわね!女の子に重いもの持たせるわけぇ?」

最低っ!と怒るネルにわざと聞こえるように大きくため息をついて、
アカイトは近くのウインドーを見た。
そして、足を止めた。

「ちょっと、‥私の話聞いてるの?」

ネルは足を止めて、振り返る。
アカイトはウインドーに顔を寄せて、見入っている。

「アカイト?」

ネルは眉を寄せて、傍に行き覗き込む。
そこにあるのは、レースをふんだんに使った赤いチェックのワンピースと
リボンの大きく付いたサンダルが置かれている。

「なに?」

ネルは隣で食い入るように見るアカイトに尋ねる。

「なぁ、これさ、ハクに似合うとおもわねぇ?
誕生日、これにしようと思うっ」

嬉しそうな顔で言うアカイトにネルは眉を寄せる。

「確かにミクの誕生日が近くってことは、私ら誕生日みたいなもんだけど‥。
ハク姉は、どっちかというと黒とかシックな方が似合うと思うけど」

あんたじゃないんだし赤なんて‥と言うが
アカイトは嬉しそうな顔でそれしか見えていない。

「絶対似合うっ!!見ろよ、このフワフワっ!着たら、すげぇ可愛いっ」

ネルはため息をつく。

「あのねぇ、あんた買えるお金持ってんの?」

そう尋ねると、アカイトが落ち込む。

「‥無理。あんなに持ってねぇよ」

夏のバーゲンと書かれていても、相当な値段だ。
ハバネロを買うお金くらいしか
章明に貰っていないアカイトでは、とても手が届かない。

「まぁ、ハク姉が着たとこを妄想するのはタダだけどね」

ネルはそう言うと踵を返し、さっさと先に行ってしまう。
それでも、アカイトはそこから離れられない。

「これ着たら、ぜってぇ似合うと思う。
誕生日まで三週間か‥」

プレゼントできたら、最高なのに‥と思う。
でも、自分にはそんな金がない。
アカイトはしばらくそこでウインドーを覗いていたが、
突然何かを思い出したように手を叩くとネルの後を追った。

***

「いってらっしゃい」

という章明の言葉にハクは玄関に様子を見に行った。

「誰か出かけたんですね?」

時刻は、既に夜の10時だ。

「ん‥うん。アカイトだよ」

章明はにこっと笑う。

「そうですか」

ハクは章明の答えにため息をついた。
今夜こそ、分からないところを教えてもらうつもりだったのだが
どうやら今夜もダメらしい。
ここ最近、アカイトは夜になると姿が見えない。
朝方もフォルダーにこもりっきりで、会えない。
それがどうやらこの外出にあるらしい。
ところが、その行き先を誰も教えてくれないのだ。

「何処へ行ったんですか?」

ハクの疑問に章明は笑うだけで答えてはくれない。
何度か尋ねてみたが、章明の答えは曖昧。
それはネルも帯人もそうだ。

(アカイトさん、どうしちゃったんでしょう‥)

ハクは自分にあてがわれたフォルダーの中で思った。

(も、もしかして、あまりにも私が下手な歌を聞かせたり、
質問攻めにしたから避けられてるのかしらっ!?)

アワアワとハクは慌てる。
いつでも、尋ねれば言葉は乱暴だが優しく丁寧に教えてくれるアカイトだから
つい甘えてしまう。
だが、もしそれが負担だったら?

(アカイトさんだって、自分の歌の練習したいでしょうし、
一人になりたかったのかも)

ハクは自分のダメさ加減を考えて、落ち込んだ。

(今度はネルさんや、帯人さんに聞いたほうがいいのかしら)

そうは一瞬考えたが、なかなか踏ん切りがつかない。
それは、アカイトじゃないからだということに気が付いた。

(私‥アカイトさんとの歌の練習が、好きなの?)

そう気が付いたら、途端夜の一、二時間程度の練習が恋しくなる。

「アカイトさん‥」

ハクはアカイトの名前を呼んで、うずくまった。

***

寝不足がここのところ続いている。
鏡と向かいあって、ハクは落ち込んだ。
なんだか元気のない顔。
いつも元気という訳じゃないが、
ここまで落ち込んでいる自分の顔は初めて。
鏡に触れて、ハクは盛大にため息をつく。

「元気出さなきゃ」

パンッと頬を叩いてから、居間へと向かった。

「ハクっ!!」

そこに突然アカイトが現れる。
ハクはその突然の登場に目を丸くした。

「あ、あのさ、今日誕生日だろ?
て言っても、緑の嬢ちゃんの誕生日だから
亜種のハクがこの日生まれかわかんねぇけど」

アカイトは視線を宙に泳がせながら、尋ねる。
ハクは止まったまま、動かない。

「だからさ‥えっと、これ」

ずいっとアカイトがハクの目の前に大きな箱を突きつける。

「受け取ってくれよ。‥おめでとう、ハク」

真っ赤になって、アカイトがなんとかハクと目をあわせる。
ハクは呆然としていたが、途端瞳に涙を溜め始めた。
突然の出来事にアカイトがうろたえる。

「な、なんで、泣くんだ?き、気に食わなかったのか?」

ワタワタと慌てるアカイトにハクが抱きつく。

「は、ハク?」
「アカイトさん‥」

ギューっと抱きついて、ハクは離してくれない。
アカイトは困ってしまって、固まっている。

「あ、あのさ‥どうしたんだ?」

ハクは何も言わない。
アカイトに抱きついたまま、泣くに任せて涙を零す。
アカイトはそんなハクを抱きしめることも、髪を撫でることも出来ず
箱を片手に固まるしかない。
しばらくするとハクが泣きじゃくりつつも、アカイトから離れる。

「ご、ごめんなさい‥いきなり」

涙を拭うハクにアカイトは首を思い切り横に振る。

「いいけどさ。‥なんで、泣いてたんだ?」

俺のやったことが気にいらなかったのか?と
不安そうなアカイトにハクは首を振る。

「違うんです。‥アカイトさんに会ったら、なんだかホッとしちゃって」


嫌われたわけじゃなかった。
ちゃんと自分の傍に戻ってきてくれた。


そう思ったら、涙が止まらなくなってしまったのだ。

「久しぶりに会ったから、嬉しかったんです」

嬉し泣きですね?とはにかむように涙をくっつけたまま、ハクが笑う。
アカイトはその表情に赤くなり、視線を逸らす。

「そ、そっか‥。ごめん」
「い、いいえっ!!
私が勝手に寂しがっていただけですから、アカイトさんは悪くないですっ」
「え?さ、寂しいっ!?は、ハクが俺がいなくて?」
「あ、は、はいっ!!ご、ごめんなさい。
私ったら、アカイトさんと会えないくらいでこんな取り乱して‥」

聞きたいことがちょっとあっただけなんですと慌てるハク。

「は、ハクが会えなくてとりっ‥取り乱した?お、俺のことで?」

と大いにうろたえるアカイト。
二人はお互いに赤い顔で見詰め合って、黙ってしまう。
先に沈黙を破ったのはアカイトだった。

「ごめんな、ハク。
聞きたいことがあったのに、俺、気が付いてやれなくて。
実はさ、これ、ハクにどうしても買ってやりたくて
章明に頼んでバイトさせて貰ってたんだ。
夜中のバイトだから、帰ってきたら疲れて寝ちまって‥。
本当、ごめん」

頭を掻いて、済まなそうに謝るアカイトにハクは首を振る。

「いいえ、そうとは知らずに私‥
アカイトさんに嫌われちゃったとか勝手に思って。
よく眠れなくて、‥誕生日なのに忘れているし、
今日こんな元気ない顔ですし‥。
アカイトさんが頑張って買ってくれたプレゼントを前に、
突然取り乱して泣いてしまうし。
ごめんなさい」

ぺこりと頭を下げるハクにアカイトは首を振る。

「それはちげぇよっ!!俺が悪い。
ハクが眠れなかったのも、元気なくしたのも、泣かせたのも俺だ。
‥だから、謝らないでくれよ。
せっかくの誕生日なんだし、‥笑っていて欲しいし」

アカイトが必死に謝るのでハクは少しだけ笑った。
それを見て、アカイトもやっと笑みを作る。

「あのさ、開けてみてくれよ。
見たときに、ハクにすげぇ似合うって思ったんだ」

促されながら、ハクは箱の包装紙を綺麗に取っていく。
出てきたものを見て、ハクが感嘆の息を吐く。

「わぁ‥可愛い」
「だろ?気に入った?」

嬉しそうに尋ねてくるアカイトにハクが頷く。

「大切にします」

私の宝物ですと笑顔で言ったハクにアカイトは一層嬉しそうな顔をする。

「へへっ‥んなに喜んでくれると働いた甲斐があったぜ」
「アカイトさん」
「ん?」

ハクはアカイトの手を取ると微笑んで

「一番最初に、‥着たらアカイトさんに見せますね」

と呟く。
アカイトの顔が限界まで赤くなった。
それを見つめながら、ハクは嬉しそうに微笑むのだった。



*1000Hit、ありがとうございます!
 感謝の気持ちを込めて、一位だったアカイト×ハク書かせて頂きました。
 最初はただプレゼントをあげたいアカイトの話でしたが、
 ミクの誕生日だったということでハクの誕生日も一緒に祝ってみました。
 決して、手抜きではありません(え)
 ハクはアカイトがいないと突然寂しがるといいなぁ‥って。
 アカイトはそんな寂しがるハクに
 毎回ドキドキしていればいいなぁという気持ちで書きました。
 ちなみに裏設定的にバイト先はたぶん柳堂路コーポレーションの系列かと(笑)
 本当に、投票ありがとうございました!



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