※最初に>この話は、いつものアカハクとは設定が違います。
赤いお兄さんはボカロですが、お姉さんはマスター、人間です。
その上、いつものほのぼのな感じとかへたれな赤い兄さんは皆無です。
それでもよろしければ、どうぞ。
それは雑踏の街の中。
大型の画面の中、”彼ら”が歌っていた。
その歌声と共に流れる字幕。
”貴方の作る「曲」を「歌」にしませんか?
貴方の「想い」に色をつけるVocaloid。”
何故か、強く惹かれた。
眼が離せなくなって、気が付いたら
「あの、これください」
私は彼を買っていた。
『恋愛Vocaloid』
ピンポーンっと鳴り響く、チャイム音。
「は〜い」
急いで扉を開けば、目の前には大きな箱。
宅配便のおじさんからそれを受け取って、私は部屋へと運んでいく。
これが、私だけの彼。
何故だかとっても、ドキドキする。
彼が目覚めたら、なんて言おうかここ数日ずっと考えていた。
だって、私だけの彼。
私は彼だけのマスター。
嬉しくて、堪らなくて‥。
震える手で箱を開けた。
途端、フシューッと音がして真っ白な煙が出てくる。
当然視界は真っ白に。
ケホケホッと咳き込み、慌てて窓を開ける。
だんだんと煙が薄れていく。
箱を置いた辺りから聞こえる、キュィィンという機械特有の起動音。
驚いていると
『―起動完了。マスター認識完了。正常に作動―』
と男性の声が聞こえた。
眼を向ければ、箱の上に彼は座っていた。
赤い瞳、赤い髪、赤い線の入っている黒い服。
彼はニッと意地悪そうな顔を私に向けながら言う。
「あんたが、俺のマスター?」
そうだと頷くことで肯定すれば、一層意地悪そうな顔になる。
「ふーん‥名前は?」
私は言おうとしていた言葉も忘れて、尋ねられたままに答える。
「弱音ハク」
「ハク?俺は、AKAITO。
Vocaloid 01−1、AKAITOだ。マスター?」
彼はそう言うと、楽しそうに笑った。
***
「発注ミス〜っ!?」
アカイトの叫び声にハクは申し訳なさそうに俯く。
「じゃあ、なんだ?あんたは俺を買うつもりはなく、
本当は01のKAITOを買うつもりだったのか!!」
「実は‥」
すみません、よくやるんです‥と謝るハクにアカイトが盛大にため息をつく。
「冗談じゃねぇ‥。
欲しくて買ったんじゃねぇ人間を俺はマスター認識しちまったのかよ」
嫌そうに言うアカイトにハクが眼を丸くする。
「あ、あれ?クーリングオフとか効くんですよね?」
まさか、買いたいものではないものを買う訳にもいかないので尋ねるハクに
アカイトは素っ気無く
「出来るに決まってるだろ」
と答える。
だが、その表情はなんだか苛立たしげでハクがオロオロする。
「な、なんで‥怒っているんです?」
「あんた、Vocaloidがどういうものか分かって買ったのか?」
「え?う、歌を歌うロボット‥じゃないんですか?」
ハクの答えにアカイトが盛大に呆れる。
「あのなぁ‥Vocaloidってのは人間に近づけて作ったものだ」
「はい、それは知っています。だから、より心を、‥想いを込めて歌えるって」
「そのためには、人間により近い心を持って出来てるんだよ」
「そ、そうなんですか‥」
「ここまで言ってもピンッとこないのかよ‥」
「え?」
アカイトは椅子に座り、腕を組むとハクを睨んだ。
「人間により近い心を持つために、
Vocaloidはマスターと認めた人間に
執着するように出来ている。
それは、その人間が考えていることや
想っていることを明確に歌として紡げるようにするためだ」
「それは知っています」
「ならいい。‥で、俺らはマスターを認めた時からその人間とある意味一心同体。
へたすりゃ、双子ぐらいのシンクロ率が可能になる。
それは、そのマスターの好みや思考、
行動パターンが認識時にインプットされるからだ」
「‥つまり、認識した時点でそのマスターそっくりのVocaloidが出来るってことですか?」
「まぁ、‥近いが‥。そういう次元の話じゃねぇ場合もある。
一度、認識すりゃそのVocaloidにとってマスターは一番大切な存在になるんだよ。
この意味、分かるか?」
「‥どういう意味ですか?」
不安そうな顔のハクにAKAITOは小さく苦笑する。
「へたすりゃ、盲目的にマスターしか見えなくなっちまう奴もいるんだよ」
その言葉にハクが息を呑む。
AKAITOは気にすることなく続きを話す。
「クーリングオフすること‥つまり、一度マスターを認識したVocaloidを変えること。
酷くいえば捨てる訳だが、そうするとそのVocaloidは悪くて廃棄か、
じゃなきゃ記憶を消去(デリート)さ」
「え‥」
「ちなみに消去って言っても、パソコンの中身を消すような容易いもんじゃない。
痛みを伴わなきゃ、いけねぇんだよ、俺らはな」
「なんで、‥そんなことを?」
「忘れるためにさ。マスターのことを」
真剣な顔で、なのに当たり前のようにさらっと言ったアカイトの言葉に
ハクが眉を寄せる。
「そんな‥」
「当たり前だろ?‥盲目的にその人間しか見えないVocaloidを再度売れるかよ」
「私‥」
危うく貴方に酷いことをするところでしたと
今にも泣きそうになったハクに
アカイトは頭を掻いた。
「別段、あんたを泣かせるつもりで脅したわけじゃねぇよ。
そういうもんだって、知っといてくれりゃいいよ。
第一、今の例は粗悪品のVocaloidに起きた例であって
全部そうってわけじゃねぇよ‥改良してる訳だし」
言い過ぎたかと少しだけ反省するAKAITOだが、ハクを見てから
なんで、KAITOなんだよ‥と小声で文句を呟く。
それをハクは聞き逃さず
「あ、あの‥怒らないで下さいね?KAITOさんを選んだのは‥」
と言葉を紡ぐ。
「AKAITOさんが少し、‥怖そうだったから」
現に今少し怖いですけど‥と涙目になって言う。
「それと、‥AKAITOさんって格好いい声だから、
テンポが速くて格好いい曲の方が似合うと思ったんです」
だから、私には無理だと思ったからと言うハクにアカイトは笑う。
「別段、俺がそういう曲である必要なんてないし、
そうである必要もねぇけどな」
と返し、
「まぁ、格好いいって言ってくれたのはありがたく頂いておくけど」
と付け足した。
「にしても、初音ミクとかMEIKOとか女のVocaloidもいる中でなんで男なんだ?」
そんなアカイトの問いにハクはあたふたとして、何故か俯き黙り込んでしまった。
それを見て、アカイトは眉を寄せたがすぐに何かを思いつき、笑った。
「あぁ‥あんた、彼氏とかいねぇのか」
カッとハクの頬が赤くなる。
「ふーん‥、まぁ‥あいつは優しい性格多いしな」
「ち、違いますっ!!そんなつもりはっ」
「見たところ、あんたは一人暮らし。OL?まぁ、仕事はなんでもいいか。
彼氏がいないってことは、
地味に生きてきて、恋愛経験なしで現在は忙しさにかまけてしている暇がない。
そんなとこ、‥違う?」
益々ハクの顔が赤くなる。
「言っとくけど、Vocaloidにはそういう概念はないぜ?
盲目的って言っても、所詮ペットが飼い主に懐くようなもんだし」
稀にそういう感情を持つ奴もいるけどさと言うアカイトにハクは観念したように呟く。
「分かっています。‥でも、寂しかったから。
誰か、私の話を聞いてくれる優しい人がいたらいいなぁ‥と思っていたの」
そんな時に広告を見て、
こんな素敵な人が傍にいてくれたらきっと毎日楽しいかもしれないと思ったから。
それを黙って聞いていたアカイトだったが突然立ち上がりハクに近寄ると
「それって、俺じゃダメな訳?」
と尋ねた。
「え?」
「KAITOじゃないとはいえ、俺はKAITOを元に作られたVocaloidだし、
あんたの願いがそれなら、俺も叶えてやるぐらいの努力はできる。
擬似恋愛すりゃいいんだろ?いや‥恋人ごっこか?まぁ、なんでもいいさ。
‥俺だって、辛い思いしてまでクーリングオフされたくねぇし。
交換条件ってことでさ」
悪くないだろ?と尋ねられて、ハクは戸惑う。
「で、でも‥それって」
嫌じゃないんですか?という問いにアカイトはしばらく不機嫌そうな顔をしていたが、
小さく笑うと
「あんたが俺を満足させてくれれば、俺だってちゃんとそれに答えるさ」
と呟き、ハクの腕を引いて頬に口付けた。
いきなりのことにハクが慌てる。
「これは、俺に説明させた分の料金として貰って置くぜ。
これから、よろしくな、‥俺だけのマスター」
アカイトは楽しそうに笑いながら、そう告げた。
終
*い、色々とすみません‥。
誰だろう‥この黒くて、赤いお兄さん(汗)
アカハクを成立させる次点でお蔵入りになったのを見つけて、
もったいないのでUPしましたが、して後悔しています‥。
本当はAKAITOさんはこんな性格で性格づけしていたのですが、
色々な動画を見てあんなのへと変わって行きました。
まぁ、押せ押せなAKAITOも書いていて楽しいですけどね?
よく読んだら、これ続ける気だったんですね、自分。
危ない‥このお兄さんなら、お姉さんにけしからんことも出来そうだっ!(オイ)
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