(なんで、俺のところにいるんだ?)
起き上がったアカイトは絶句するしかなかった。
隣ではスースーと無防備にハクが眠りこけている。
それをちらっと見て、ため息。
「夢だ、きっと‥」
ギュッと頬をつねる。
‥痛い。
「現実か‥。なら、あれだ、びっくりだろ?」
カメラ、カメラ‥と探すがあるわけなんてない。
見回して、再度ため息。
「もう一度寝れば、夢だって覚めるだろ」
投げやりでそう言って、横になるが耳元でハクの寝息。
(だぁぁぁっ!!!)
声にならない叫びで起き上がるアカイト。
(眠れねぇよ、眠れねぇ!!)
眠れることの出来る男がいたなら、それは神かアホだ。
好きな女の子を隣にグーグー眠るなんて、健全な男子がすることじゃない。
(どうすんだよ‥、どうすりゃいいんだ‥)
しばらく悩んで、とりあえず落ち着くことに決めた。
「そうだ‥ここで取り乱してどうすんだよ」
取り乱したら、まるで下心があるからみたいに思えるし、第一格好悪い。
(俺はこんな苦難程度で、取り乱す安い男じゃねぇぜ)
苦難かどうかはともかく、アカイトは
当然だろ?俺を誰だと思ってやがる!と自分に言い聞かせて、深呼吸‥
「‥もう、のめませ〜ん」
「っ〜〜〜‥!?」
突然、ハクが喋ったせいでアカイトの顔が一気に赤くなる。
(ね、寝言だって!!なに、心臓ドキドキしてんだよっ!!
これじゃ、俺が悪いことしようとしてたみたいじゃねぇかっ)
何度か呼吸して、再度落ち着かせる。
「ハッ‥こ、この程度で取り乱す(以下略)」
相当取り乱しているが、なんとか持ち直したアカイトは
とりあえずハクをどうするか悩んだ。
(こいつの部屋に連れて行くのが妥当だよなぁ)
だが、それにはお姫様抱っこなるものをする必要がある。
もちろん、引きずる手も考えたがあっさり却下した。
(けど、お姫様抱っこねぇ‥)
正直なところ、何処で使うんだよ、そんなもん‥と思っていたので、
やる度胸もなきゃ、まず自分にそれだけの腕力があるか謎だ。
(失敗したら、格好悪いとかの次元じゃすまねぇ)
だから、考え直す。
自分がここで寝なけりゃどうだ!!
そう思ったが、それは無理だ。
まず、次の日ここで自分が寝れるのだろうか?
次にハクが起きた時、どう思うのだろう?
〜以下、アカイトの妄想〜
「ははっ、もう逃げられねぇぜ」
「あ、‥や、やめて下さい‥」
「泣いても遅いぜ。助けを呼んでも、誰も来ない。
お前は俺のもの。覚悟しなっ!!」
「あぁ、ご無体なっ‥お止めになって〜」
って風に想像されたら、最悪だ。
「悪役じゃねぇか、俺っ!!」
その上、最低でも口は聞いてもらえなくなり
最高(?)で、嫌われる。
(嫌われるのは絶対嫌だっ!!)
だから、ここで寝かせるのも問題だ。
ならば、起こすのはどうだろうか?
それなら、簡単だ。
声をかければいいだけだ。
(けど、可哀想じゃねぇか?こんなに気持ちよく寝てるのに)
フフッと楽しい夢でも見ているのか笑ったハクを見て、
アカイトは悩む。
これ以外に考えられる案がない。
知らない振りして、寝ている手もあるがそれは無理すぎる。
隣で寝ていられないからだ。
(悪いっ、ハク!!)
済まないと心の中で十回近く呟いて、ハクの身体をゆする。
「起きろよ、ハクっ!」
だが、ハクはピクリとも動かないし、起きる気配もない。
「おいっ、ハク!!」
再度ゆすって、近くまで顔を寄せて声をかけてみる。
「へ?」
突然ハクの腕がアカイトの首に絡まって、グッと引き寄せられる。
第三者が見れば、どう見てもアカイトが押し倒したようにしか見えない。
(お、お、落ち着けっ!俺はこんなことじゃっ‥)
取り乱すことない、紳士だぞっ!!と心の中で思うが、
それと反対に何処か仄かに甘いハクの匂いにどうかなりそうだった。
(ハクって良い匂いだよなぁ‥。
すげぇ、柔らかそうだし‥って、ハッ!?)
我に返って、ブンブンと首を振ると邪心を追い払う。
(俺は紳士だろ?こんなことぐらいで、どうこうなる男じゃねぇし、
ハクに一番信頼される男でいるって決めたんだっ)
「アカイトさんって、優しい人ですね」というハクの笑顔を思い出して、耐える。
とりあえずは嫌われるのを避けたい。
水の泡になるのはごめんだ。
(そうさ‥俺は、そこら辺の下心ある男とは違うんだよ)
フッと余裕ある笑みを浮かべて、言い聞かせる。
完璧だ、‥今ならなんでもやれる気がする。
たぶん、五十階建てから飛び降りても生きて返れる自信がある!!
「‥アカイトさん」
「〜〜〜‥!?」
ハクが自分の名前を呼んだ瞬間、
アカイトは思わず大声を出しそうになって口を押さえる。
無理だっ!!
五十階建ては無理!!
(間違いなく、死ぬっ!)
今の自分では無理すぎると付け加えて、とりあえず過呼吸。
(ね、寝言だって!!めちゃくちゃ取り乱しまくりだろうが、自分っ!!)
今更ながら、突っ込みを入れる。
なんで、このタイミングで名前を呼ぶのだろう。
というか、どんな夢なのか気にはなる。
(今分かったぜ、‥確かに何処までSだよ‥神)
と某青い吸血鬼の気持ちを悟って、アカイトは泣き笑い。
(どうとでも俺を苛めろよ‥)
投げやりに思う。
途端、グッとまた引き寄せられて体勢を崩す。
「お、おい、ハクっ!?」
近くなった顔。
もっと、近寄ったらそれこそキスでも出来そうだ。
(じょ、冗談‥)
びっくりや、夢じゃないのならこれはなんだろう?
悪夢?
でも、ハクはまだ何事もないように寝ている。
体勢は既に押し倒すとかの次元じゃない。
(やばい‥これは‥)
悪夢でも、罠でも、これなら‥。
(はまっちまうのも、ありかもしれねぇ‥)
目の前には眠り姫。
眠り姫はキスすれば目覚めるのがお約束。
(しても、問題ねぇんじゃねぇの?これ?)
理性がぐらつくのを感じながらも、近すぎる距離に思考が麻痺しつつある。
「なぁ、ハク‥しちまうぜ?」
この状況に立って嫌われるとかこの際、
どうでもよくなってくるというのが
男の悲しい性というかなんというか‥。
(おいおい‥しちまったら、紳士としてどうなんだよ?)
問いかける心を半ば無視して、身体は勝手に動く。
ハクの前髪を上げると額へと唇を寄せる。
突然ハクが緩々と眼を開くが、止めるつもりはなくなっている。
ハクが焦点の定まらない瞳でなんとかアカイトを認める。
「アカイト‥さん?」
「‥ハク」
アカイトの唇がハクの額に触れかけて‥
「ちょっと、アカイトっ!ハク姉さん、知らない?」
「見かけてないかって、‥ネルがうるさいからなんとか言え」
と突然ネルと帯人が同時に入ってくる。
当然、アカイトの思考は止まるし、
二人にはアカイトが襲っているようにしか見えないわけで‥。
「あ、‥あんたって男は〜〜〜っ!!」
プルプルとネルが握りこぶしを振るわせる。
「‥ご愁傷」
帯人のポツリと呟いた言葉と共に
「ネル、アタ〜〜〜ック!!!」
とネルのとび蹴りが言い訳をしようとしたアカイトにきまる。
吹っ飛んでいくネルとアカイト。
ハクは呆然としたまま。
「無防備なハク姉になにしてんのよっ!!!」
「ち、ちがっ!!俺はっ」
「問答無用〜〜〜!!」
「うわっ!?ネル、待ったっ!!」
フルボッコ状態なアカイトを見て、帯人がため息。
「平気、ハク?」
「あ、は、はい‥」
記憶がほとんどないハクは、この状況が飲み込めない。
(なんで、アカイトさん、殴られているんでしょう?)
ネルの華麗な攻撃の数々をハクはぼーっと見ているのだった。
終
*だいぶ赤いお兄ちゃんが可哀想なお話(苦笑)
あれでそれな話は難しいので、こんなで誤魔化した訳じゃないですよ(え)
こんな風に男の子がぐしゃぐしゃ考え込む話が大好きです。
つい調子に乗ってやるのですが、やり過ぎて‥(汗)
色々ネタに走ってます、すみません(土下座)
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